感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
SIGERU
17
吉野弘の詩は分りやすいと云われる。日常からの発見を平易な言葉で語りかける作風は、詩の初心者にも親しみやすい。しかし、彼が切り出す「日常」の陰影はきわめて濃く、人生への洞察に充ちて、奥行きが深い。卓越した観察者のみが到達できる詩境だろう。吉野の詩でいちばん好きなのは、電車内での日常の一コマを鮮やかに定着させた『夕焼け』だ。若い娘は、満員の車内で、お年寄りに二度までも席を譲る。しかし三度目は…。見知らぬ娘の受難者の如きやさしさへ向けられた透徹したまなざしは、彼女の人生の行く末にまで届いて、読み手の感動を呼ぶ。2020/12/11
ぷるいち
12
「I was born」が有名な詩人ですが、ほかの詩篇においても昼間のあいだの言葉というか、衒いがないというか、この詩人の目はあまりに聡いからか、平易に詩情が溢れ出てくるようでした。それでいて、この人の言葉は死に近い。「実業」、「モノローグ」あたりは、勤め人を突き動かしそうになります。2016/05/28
seer78
6
中学のとき、教科書で「I was born」を読んで以来だ。子どもながらに感じる、人生のむなしさを散文詩にした人、という漠然とした記憶しかなかった。今回、60年末までの代表作を集めたこの詩集を読んで、その印象が一変した。戦後の、労働運動華やかなりし頃の雰囲気が濃い。言葉遣いは平明そのもので、心にしみ入ってくるように、やさしい。とりあえず三つ選ぶと、詩人が娘に寄せた「奈々子に」、母子の問答体の「火の子」、詩歌がなぜ求められるかに迫る「歌」。菅谷規矩雄の解説で詳しく論じられている「モノローグ」も捨てがたいが。2015/11/24
misui
6
以前はあざとく感じられて苦手だったが今読んだらとても良かった。まず虚無の認識があって、それに抗う形で生が、社会が営まれているというところにこの人の詩はある。名作「I was born」のように死を前提にした生の慄き、または死への接近が、社会を成り立たせている矛盾にも向けられる。そうやって掬い上げられるものは虚ろで哀しいが生きることそのものである。あざとさはどうしようもなくあるのだけど、それを帳消しにするほどにこの人の眼は鋭い。一転して好きな詩人になった。2014/06/03
有沢翔治@文芸同人誌配布中
5
吉野弘の詩は小学校の教科書に「虹の足」が載っていたので、多くの人が知っているだろう。また最近では「岩が」が中学校三年の教科書に掲載されている。「虹の足」は喜び、「岩が」は生きていく上での苦難を表しており、社会性は薄い。しかし労働を題材にした詩も数多く書いている。 https://shoji-arisawa.blog.jp/archives/51528672.html2023/03/09
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