内容説明
「批判」という語や営みが価値下落して久しい。かつて「批判精神」や「社会批判」がもっていた価値は地に墜ちたのか。いま日本社会には「批判」を許さない抑圧的な空気が社会に蔓延し、過激な保守言説が跋扈し、それが野放しにされている。現在のこうした閉塞的な状況は、どうして生じたのだろうか。本書は、いわゆるネオリベラリズムとその反動から生み出された現象として、とくに改憲案や、ポストモダン的とも言える新たな保守主義言説を取り上げ、その歴史的・社会的文脈を思想的に剔出。それらがバッシングの標的としている人権や民主主義の考え方の基本的な可能性について新たな展望を開く。
目次
序章 ネオリベラリズム・コンプレックス(自由市場か統制か;ネオリベ・グローバリゼーション ほか)
第1章 狂った保守主義、または美徳の喪失(蔓延するポストモダン保守;サヨク陰謀論と「国民の思想」;反リベラリズムの生け贄)
第2章 戦う民主主義から闘う民主主義へ(批判感覚としての義の再生;闘う民主主義)
第3章 日本国憲法「改正」を読む(日本株式会社の社訓;立憲主義に反する国民の責務 ほか)
著者等紹介
藤本一勇[フジモトカズイサ]
早稲田大学文学学術院助教授。20世紀フランス哲学専攻(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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小鳥遊 和
1
たぶん売れなかったと思われる本をまた推奨する。購入の動機は非常に不純だ。施光恒を通じて佐伯啓思が気になりはじめた。佐伯の数多の著書はどれも魅力的な標題。買い漁りたくなったが「佐伯を根本から批判した本を読んでから決めよう」と思い、本書に行き着いた。2006年刊、著者はポストモダン哲学の研究者で、佐伯啓思、八木秀次を「ポストモダン保守」と呼ぶ。佐伯らが欧米の思想と歴史を縦横に参照して展開する人権批判、民主主義批判に対し、論拠に致命的なすり替えありと論駁していく。理論家が緻密な語り口で現実と切り結ぼうとした書。2023/09/03