出版社内容情報
それまで軍事とは無縁だった農民たちが、幕府や藩によって兵士に仕立て上げられたのが、幕末の農兵である。狭義の「農兵」とはイコールではない。奇兵隊など庶民を含み込んだ長州藩諸隊については、明治維新の本質論に関わる長い研究史があるが、農兵の研究は皆無である。伊豆で生まれ育った筆者にとって、「農兵」は昔から聞き慣れた言葉だった。幕府における農兵制の提唱者江川坦庵であり、静岡県三島市では「農兵節」(ノーエ節)が祭や観光と切っても切れない民謡として定着している。伊豆地域において農兵の存在は古くから身近なものだが、先鋭的な学問上の争点となったテーマであることとは程遠く、何となく牧歌的なイメージでもあった。しかし、兵農分離という江戸時代の原則を打破し登場した農兵というしくみは、決してローカルなものではない。すでに奇兵隊の名は挙げたが、全国の諸藩や各地域でも、時を同じくして同様の組織が生まれている。また、当時の民衆にとっては牧歌的どころか、生命にも関わる一大事だったはず。プロの戦士だったはずの武士たちはそれほどまでに戦えなくなってしまっていたのか? 平和に生きてきた農民たちは命を懸けてまで戦いたかったのか? その背景には、西洋列強による軍事的脅威、幕藩体制の動揺によって引き起こされた一揆や内乱という内憂外患があった。やがて封建制や身分制は解体され、日本は近代国家へと脱皮していくこととなるが、その過渡期に誕生し消えていった農兵は、戦争や軍事には関与することがなかった一般民衆に、身をもって国家の一員であることを体験させ、初めて「国民」としての自覚をもたらしたものなのかもしれない。その幕末の農兵について、先学の研究や各地の自治体史等の成果に学びつつ、全体像を概観できるよう叙述したのが本書である。日本各地の農兵の動向を全て網羅。農兵研究の嚆矢の書といえる。
内容説明
幕末、武士だけでなく農民たちも銃を持ち戦うことになった。幕府の韮山代官によって採用された農兵、そして全国各地の農兵について、その全体像を初めて明らかにする。
目次
第1部 韮山代官の農兵(先覚者江川坦庵の建策;駿豆と武相の農兵;警備活動と実戦参加;戊辰戦争とその前後)
第2部 幕末の農兵いろいろ(各地の幕府代官による農兵;諸藩と旗本の農兵;農兵に類似した存在;維新のあと)
史料編
著者等紹介
樋口雄彦[ヒグチタケヒコ]
1961年生まれ。静岡大学人文学部卒。博士(文学、大阪大学)。現在、国立歴史民俗博物館・総合研究大学院大学教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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