内容説明
世界で日々起きている破局的な出来事。その狭間を自分も生きているのだと、不意に気づかされることがある。身近な人の大切な時に立ち会えなかった作家に大震災がもたらした、生者と死者とを結ぶ思想。フランスで絶賛された震災三部作を一冊にまとめた邦訳版。
目次
これは偶然ではない
声は現れる
亡霊食―はかない食べものについての実践的マニュアル
著者等紹介
関口涼子[セキグチリョウコ]
1970年生まれ。著述家・翻訳家。東京都新宿区生まれ。1989年、第26回現代詩手帖賞受賞。早稲田大学在学中の1993年、詩集『カシオペア・ペカ』を刊行。1996年、東京大学総合文化研究科比較文学比較文化専攻修士課程修了。その後パリに拠点を移し、フランス語で二十数冊の著作、また日本文学や漫画の仏訳等を刊行。2012年フランス政府から芸術文化勲章シュヴァリエを受章。2013年ローマ賞受賞、ヴィラ・メディチに一年滞在。訳書のP.シャモワゾー『素晴らしきソリボ』で日本翻訳大賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ネムル
19
311後の日記、死者と声、放射能と食、三編からなるエセー。先にフランス語で描かれた自作自訳、非当事者言語から10年近い時を経て当事者言語への翻訳、311を経験したパリから東京へのフライト、続発するカタストロフの最中に「以後」よりも「前夜」に向けられた思索、をコロナパニックの最中に読む。時制のゆらぐ眩暈にも近い読書経験だ。鎮魂、告発、警告と様々な性格をもつ本だが、カタストロフの最中であり、来るカタストロフの前夜でありという、ゆらぐ時制への身ぶりを強く考えさせられる本だと思う。2020/03/27
アマヤドリ
17
自分自身も震災からはじめて生活の大半の時間をかけてきたことが区切りをつけた今、そしてウィルスの蔓延で息を潜めながら在宅せざるを得ない今、この本を手にとったことの不思議を思う。 なかほどの「声は現れる」を読んでメモを書いた。 https://note.com/amayadorinote/n/nba29fe4c92cc2020/03/28
きゅー
6
著者はフランスで東日本大震災発生の一報を聞く。そこから約1ヶ月間の手記が「これは偶然ではない」として収録されている。読み進めながら、当時の空気感を思い出す。呆然としてテレビで放送される悲劇を見続けたあの週末。そして引き続く不安と人々の間に生まれた断絶。「絆」という言葉を強調すればするほど、それが困難な現実に思い知らされた。カタストロフは起きてからそれと察せられる。3.11も、新型コロナウイルスも。ようやく落ち着いたと安心している私たちは次のカタストロフの前夜にいる。それが現前するまでは誰にもわからない。2023/08/03
gorgeanalogue
6
まるで自分が書いたように思え、ここ数年でもっとも面白かった『エコラリアス』の訳者にして詩人の「311〈後〉」をテーマに中心に据えた散文詩のようなエッセイ。カタストロフの「前後」に流れる、輻輳し宙に浮いた「ぼんやりした」時間。全編に流れるのは忘却と記憶、不在と亡霊、死者の声とその回帰が「今」の時制をかき乱すことの「現れ」についてである、と言ったらいいか。今、自分が考え(ようとし)ている「残像」への興味の共振もあって、減衰しつつ「揺れ酔い」の中で読んでいるような時間だった。2020/03/03
OHNO Hiroshi
5
『これは偶然ではない』に書かれたエピソード。引用。”五百二十人の死者を出した一九八五年八月十二日の日本航空墜落事故の後、乗客名簿をテレビ画面に映しながら読み上げていたキャスターの木村太郎が、日航社長の記者会見があるというので途中でカメラと音声が切り替わろうとしていた時、上司が止めたにもかかわらず乗客名簿を読み続けた。”2021/12/26