内容説明
日本の芸能を創造し担ってきたのは、社会の最底辺にあって、生きる糧を得るために芸を演ずるほかなかった人びとであった。厳しい差別を受けながらも、その辛さを逆手にとって彼らがしたたかに生み出した芸は、民衆の生活に豊かな潤いを作り出してきた。猿楽能、大道芸、放浪芸など、生活と労働に結びついた芸能の原初の姿を追い求めて全国各地を歩き、テレビ登場後の芸能界の繁栄の裏で失われつつある芸能の本質に迫る。
目次
第1章 民衆の芸能をたずねて(大道芸人のメッカ、大津;芸能の源を探る ほか)
第2章 芸能の底流(その1―夢で見てさえよいとや申す;その2―飴色の四ッ竹も虫くいとなり ほか)
第3章 差別と大衆文化―中世賎民文化の遺産をうけつぐもの(放浪芸の祖・乞食者;太郎冠者からの視線 ほか)
第4章 芸能と被差別(芸能者の営業原理を考えてみたい;ストリップのお姉さんは芸能の原点に立つ ほか)
第5章 芸人バンザイ(芸能史をたどるための重し;九州の役者村 ほか)
著者等紹介
小沢昭一[オザワショウイチ]
1929年、東京に生まれる。俳優。新劇・映画・テレビ・ラジオで幅広く活躍。民衆芸能研究にも力を注ぎ、それぞれの分野で数々の賞を受賞。2012年、逝去
土方鉄[ヒジカタテツ]
1927年、京都市の被差別部落に生まれる。作家。元「解放新聞」編集長。『地下茎』(三一書房)で新日本文学賞を受賞。2005年、逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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gtn
19
小沢昭一が門付芸人に扮し、鎌倉の洋菓子店を訪れる。無視を決め込む店主をよそに、従業員の女の子が反応する。彼女は考えた末、自分の財布から百円玉を二枚つまんで氏に手渡し、「早くテレビにカムバックして下さいね」と励ます。氏は彼女の心遣いがかわいらしく、また忘れられないという。思うに、芸能は差別の歴史といった画一的なものではなく、氏が体験したような心の触れあいがあったからこそ生き永らえたのではないか。2020/03/21
nizimasu
7
俳優の故小沢昭一さんが80年に出版した芸能に関する論説や講演をまとめたもの。小沢さんと言えば日本の放浪芸などの芸能の原点をたどる著書や記録物などのフィールドワーク的な功績も大きい。そうした中で知り得た被差別と芸能の重なり合う歴史をかなり突っ込んだ話をしている。その背景には日本が終戦を迎えこれまでの価値観が一変した事情も重ね合わせる。日本の戦後が唯一文化国家であった時代だとのべる小沢さんは権力に追従しながらと舌を出す芸能もの虚実ないまぜの生き方に自分の指針を定める。それがエロ事師としての真骨頂でもあったのだ2015/05/08