出版社内容情報
●内容紹介(版元ドットコムより)
幕末維新期から明治末までを取り上げて郵便事業の発展過程を編年的に記述した「通史編」と、特定郵便局制度の源流や植民地における郵便事業の展開を論じた「特論編」、及び「史料編」の三部構成。日本史の一環に郵便史を位置づけることを目指した研究の集大成。
●目次(版元ドットコムより)
はじめに
第 I 部 通史編
第一章 新式郵便への準備
第1節 郵便前史としての宿駅飛脚制度
第2節 駅逓司の設置と駅法改正
第3節 公用通信の変遷
(1)駅逓司の「四九御用便」
(2)急便は再度定飛脚便へ
(3)新式郵便への試走
第二章 新式郵便の創業
第1節 「日本郵便の父」前島密
(1)前島の素志と郵便知識の吸収
(2)新政府への出仕と改正掛での活躍
(3)郵便創業を建議
第2節 政府は当初郵便を軽視
第3節 駅逓正杉浦譲の事績
第4節 現地での郵便創業準備
(1)大津・西京での準備会議
(2)各駅の責任者・実務者・脚夫・局舎
第5節 東海道石部駅での準備と開設
第三章 近代郵便の創設
第1節 宿駅制度の解体と新施設への動向
(1)伝馬所廃止と陸運会社創設
(2)陸運会社へ郵便業務を委託
(3)出張駅逓官員の引上げと重立局の設置
第2節 定飛脚と官営郵便との対立と協調
第3節 陸運元会社による郵便網の展開
第4節 逓送手段――近畿地方を中心に
(1)逓送脚夫
(2)人力車
(3)人送車
(4)海上船舶
(5)淀川の川船
(6)京阪郵便馬車
第5節 料金均一制・官営独占制の確立
第6節 海外への郵便線路の進出
(1)「琉球処分」の先駆的施策
(2)中国の主権を侵して上海へ
(3)朝鮮へは軍艦旗とともに
第7節 在日外国郵便局の設置と撤退
(1)米・英・仏の四港への設置
(2)日米郵便交換条約締結とUPU加盟
第四章 近代郵便の展開
第1節 郵便事業監督官庁の変遷
第2節 郵便ネットワークの積極的拡大の時代(明治四~一四年)
第3節 郵便ネットワークの基盤整備(明治一五~一八年)
第4節 統計にみる明治前期郵便事業
(1)郵便利用の普及
(2)明治前期郵便事業の収支状況
(3)統計にみる明治前期郵便事業の収支状況
第五章 逓信省の創設と郵便事業の成長
第1節 逓信省の創立
第2節 地方機関の整備
(1)地方監督機関の整備
(2)郵便局の再編成
(3)三等郵便局
第3節 郵便ネットワークの整備
(1)郵便線路
(2)逓送技術の革新――鉄道逓送への転換
第4節 地方郵便局の対応
(1)郵便区の整備と集配システムの確立
(2)地方郵便局の構成員
第5節 小包郵便の開始
(1)小包郵便制度開設までの経緯
(2)小包郵便の実施状況
第6節 法体系の整備
(1)郵便法の制定
(2)「郵便中興の恩人」坂野鉄次郎の郵便事業改革
第II部 特論編
特論1 郵便取扱役制度の考察――特定郵便局制度の源流について
はじめに
第1節 郵便取扱役制度研究史
(1)郵政事業従事者による論文
(2)学者・研究者による論文
第2節 郵便取扱役制度採用への経緯
第3節 請負に関する諸問題
第4節 制度の効果――コスト削減の具体例
第5節 権宜の方法・苟且の法
第6節 石部駅の辞令にみる郵便取扱役制度
第7節 格式付与に対する対応
第8節 兼業・兼職の実態
第9節 辞退者続出とその対策
第10節 郵便取扱役の収入についての見解
第11節 郵便条例制定当時の状況
おわりに
特論2 日本の植民地拡大と郵便事業の導入および展開――植民地時代の台湾・朝鮮における郵便事業の経営実態
はじめに
第1節 日清戦争勃発と軍事郵便制度の創設
第2節 日本統治下の台湾における郵便制度の導入と展開
(1)「台湾征服戦争」と軍事郵便制度の導入
(2)日清戦争後の台湾における郵便事業の展開
第3節 朝鮮における郵便事業の導入および統合の過程と展開
(1)朝鮮における日本の郵便主権独占の過程
(2)日韓通信合同以後の韓国における郵便事業の展開
むすび
参考文献
第III部 史料編
・東海道石部駅郵便創業史料
・東海道石部駅郵便創業史料解説
・史料
明治四年/明治五年/明治六年/明治七年/明治八年/明治九年/明治一〇年/明治一一年/明治一五年以降/明治九年郵便年報
・東海道石部駅郵便創業史料目録(明治四年~明治一九年)
おわりに
郵便史年表(一八六七~一九一一)
●本書より(版元ドットコムより)
はじめに(藪内吉彦・田原啓祐)
本書は、幕末・維新期から立憲制が確立する時期における郵便事業の創設および確立についての通史である。郵便史の解明が主目的であるが、郵便史を通じて近代日本の形成を明らかにすることで、日本史の一環としての郵便史を位置づけることを意図している。
(…中略…)
本書第I部「通史編」は、対象時期を江戸時代末期(郵便創業以前の通信)から明治期末まで取り上げ郵便事業の発展過程を編年的に記述している。本書の独自性のいくつかをあげると、一つは各時代における郵便事業の発展に貢献した人物功労者を取り上げた。従来の史書では「郵便の父」と称せられる前島密を除いてほとんど取り上げられていないが、本書では、初代駅逓正杉浦譲、駅逓総官野村靖、お雇い外国人サミュエル・M・ブライアン、郵便中興の恩人といわれる坂野鉄次郎の業績も可能なかぎり紹介した。
また「通史」でありながら、随所に地方の郵便局史料が多く盛り込まれているが、これは地域の事例に分け入って郵便事業を検討することにより、全国的な概観だけではわからない当時の郵便事業の実態を明らかにし、その上で全国的な視点との関連をもたせることを試みたことによる。そのほか、郵便史研究の一層の進展のため、通説に対する批判、問題提起も試みている。従来イメージされる通史とは変わったものと感じられるかもしれないが、この成否については読者のご批判を待つほかにない。
第II部「特論編」では、共著者それぞれの関心に基づいて、郵便史に関する最新の論考を収載した。
特論1(藪内論文)は、日本における郵便事業の普及に最も重要な意味をもつ「郵便取扱役制度」解明の最新の成果である。全国郵便局数の大部分(民営化直前の平成一九年七月の数では、全国郵便局数二万四五七四局のうち、簡易郵便局四三五六局を除く郵便局二万〇二一八局のうち特定郵便局は九三パーセントの一万八九二四局)を占めているのが元特定郵便局であり、特定郵便局の名称は民営化で消失したが、一般利用者に与える影響には変化もなく、「郵便取扱役制度」とは特定郵便局制度の源流である。
特論2(田原論文)では、明治期の日本植民地における郵便事業の展開について検討した。戦前の日本では、植民地の拡大とともに郵便事業を導入、拡大していった。その実態を解明することは、日本の郵便史研究を進める上で重要な課題であるが、国内でこの問題に取り組んだ研究はほとんどない。そこで本稿では、台湾、朝鮮を中心に取り上げ、明治期の日本の植民地への郵便事業の展開の実態を比較、検討し、植民地における郵便事業の展開における経済的合理性の有無について検討した。
第III部「史料編」は、東海道石部駅郵便創業史料である。先述したように『郵政百年史資料』(全三〇巻)の発行により駅逓司(寮・局)など中央官庁の史料はみることができるが現地の史料は従来ほとんど利用できなかった。
逓信博物館所蔵史料の翻刻として、平成元(一九八九)年に、東海道赤坂郵便取扱所史料四七件、平成五年には東海道袋井郵便取扱所史料一六三件、平成六年に東海道三島郵便取扱所の史料四一件が、逓信博物館「研究調査報告」として出版されているが、市販はされていない。藪内吉彦著『日本郵便発達史』(明石書店、二〇〇〇年)に収録した石部創業史料は三冊の『御用留』(藪内所蔵)所収の五三五件であるが、今回は、翻刻未了で前著に記載できなかった史料である。
(…後略…)
目次
第1部 通史編(新式郵便への準備;新式郵便の創業;近代郵便の創設;近代郵便の展開;逓信省の創設と郵便事業の成長)
第2部 特論編(郵便取扱役制度の考察―特定郵便局制度の源流について;日本の植民地拡大と郵便事業の導入および展開―植民地時代の台湾・朝鮮における郵便事業の経営実態)
第3部 史料編(東海道石部駅郵便創業史料)
著者等紹介
薮内吉彦[ヤブウチヨシヒコ]
1926年大阪市に生まれる。大阪府立豊中中学校卒業(旧制)。1947年大阪高麗橋三郵便局長拝命、1987年同上定年退職。現在、郵便史研究会会長、交通史研究会会員、大阪歴史学会近代史部会会員
田原啓祐[タハラケイスケ]
1972年山口県に生まれる。下関市立大学経済学部卒業、大阪市立大学大学院経済学研究科後期博士課程修了。博士(経済学)。日本学術振興会特別研究員(PD)、現在、大阪経済大学日本経済史研究所特別研究所員、大阪経済大学非常勤講師、青山学院大学兼任講師、郵便史研究会理事(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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