内容説明
人跡まれな山域での登山を通じて、独自の視点で「山」を表現してきた高桑信一氏が、十年以上もの歳月を費やして、ゼンマイ採り、山椒魚採り、猟師、蜂飼い、漆掻きなど、山で生きる十九人の姿を活写し、登山の域を超えた書き手となる端緒となった代表作。狩猟はじめ山村文化が注目される現在、本書は新たな光彩を放つ。二〇〇二年に刊行された単行本を文庫化。
目次
只見のゼンマイ採り―菅家喜与一
南会津の峠の茶屋―中村源治
川内の山中、たったひとりの町内会長―渡辺慶作
桧枝岐の山椒魚採り―星寛
足尾・奈良のシカ撃ち―井上盛次
只見奥山、夫婦径―佐藤恒作
奥利根の山守り―高柳盛芳
会津奥山の蜂飼い―松本雄鳳
仙人池ヒュッテの女主人―志鷹静代
桧枝岐の雪が極めたワカン作り―平野茂〔ほか〕
著者等紹介
高桑信一[タカクワシンイチ]
1949年、秋田県生まれ。電電公社からNTT勤務を経て2002年退社。「ろうまん山房」を設立してフリーランスに。主に取材カメラマン、ライター、渓流ガイドとして活動する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Shoji
65
猟師、花卉栽培、山菜採り、炭焼き、山岳ガイドなど、山に関わることを生業にしている人たちを著者が丁寧に聞き書きしたドキュメンタリーである。山といっても里山ではない、とても奥深い山なのである。言い換えれば大変な僻地であり、とても不便な暮らしであろうはずが、登場人物は活き活きとし、生活が充実しているのである。本当の豊かさとは何だろう。考えさせられた一冊でもあった。2017/12/23
OHモリ
13
●尊敬する高桑さんが書いた本、以前からで読んでみたいとマークしていた本を偶然BookOffで発見して即購入! もったいなくも主に昼のお弁当の友として拝読させていただいた。「山で仕事をしながら、山で暮らす」人たち19人を取材したノンフィクション、失われていくものに対する哀愁だけでなく、彼らを淡々と語りながらも生きるカ強さのような迫力を感じた。〇滅びゆくものへの哀惜(あとがきより)1992年から2001年に掲載されたもの、すでに失われてしまっただろうものが大半、とても残念に思う。読んでいて切なくなり癒された。2019/02/24
あきひと
11
トンネル開通で人が絶えた峠の茶屋で岩魚の塩焼きを提供する中村源治。これが絶品で、これを目的に峠を目指してきた人が多かったという。調べてみたら、ご主人はすでに鬼籍に入られ茶屋もないそうだ。残念。 このほかゼンマイ採り、狩猟者、蜂飼い、ワカン作り、白炭焼きなど、山で暮らしながら山の仕事をする人々の姿を、お人柄までが伝わってくるほどに描き出していて読み応え有りました。年2回発行の雑誌「渓流」に連載された19人の姿は日本の原風景です。TV番組「ぽつんと・・・」は面白くて見てますが、比べるのは酷なほど深みが違います2023/05/20
yuji
11
マタギ、山菜採り、炭焼き、山小屋、農業の閑散期を埋める収入源と捉えるか、こちらを正業と捉えるか。高度成長期や道路の整備が進んで村を出て行く人は絶えない。そして、誰もいなくなった。消えゆく日本の仕事、日本の風景、日本の里山。記憶に残すなら今しかない。最後の灯火を丹念に懐に入って取材した力作。2021年の今、どれももう残っていないと思われる。これらを収入源と捉えるか、里山文化と捉えるか。お金がないと暮らせない社会が里山文化を壊しているのかもしれないが、気がついても戻れない。ロマンは感じても真似できない。2021/06/06
yamakujira
9
山に生きる19人の人々をえがくルポ。ゼンマイ採り、民宿経営者、離村集落の最後の夫婦、山椒魚採り、猟師、自然保護活動家、養蜂家、山小屋経営者、ワカン職人、炭焼き、山岳救助隊員、写真家、園芸農家、漆掻き、移住者、天然氷の蔵元と、山に関わる暮らしのバリエーションが楽しい。取材後に終焉を迎えたり、後継者のいない仕事もあり、民俗学的な記録としても興味深いけれど、羨ましいと感じる生活がほとんどない。それは自分が都会生活に毒されているだけでなく、ひしひしと伝わる厳しい生活を怖れるからだろう。 (★★★☆☆)2015/02/18