出版社内容情報
合田シリーズ7年ぶりの新作。12年前の未解決事件を追う合田が関係者らの閉ざされた記憶を辿る。人間の犯罪の深淵をえぐる警察小説の金字塔!
内容説明
一人の少女がいた―合田雄一郎、痛恨の未解決事件。動き出す時間が世界の姿を変えていく。人びとの記憶の片々が織りなす物語の結晶。
1 ~ 2件/全2件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
490
高村薫らしい重厚な文体と構成を持った小説。12年前に迷宮入りしていた殺人事件が、朱美の突然の不慮の死を契機に再び甦ることになる。巻頭に小金井、三鷹、調布、府中の地図が掲げられているが、物語はその狭い領域で終始する。朱美(=少女A)を含む少年少女たち、警察の関係者たち。12年後に彼らの今と、当時とが執拗なまでの粘着性を持って語られる。そして、そのことによって12年前には不分明だった細部が次第に明らかになってゆく。ここに登場する人たちは皆、多かれ少なかれ"鬱"の状態に支配されているかのようである。この暗さは⇒2023/04/28
starbro
339
高村 薫は、新作中心に読んでいる作家です。久々の合田雄一郎シリーズ、期待して読んだ割には、あまりドラマがなく淡々と終了しました。新聞連載小説で、挿絵画家が10人もいるというのは、初めてです。 https://wareragashojoa.com/2019/08/08
いつでも母さん
248
とにかく読んだ。自然と貪るように読まされた。あの時の少女・朱美が殺された事でかつての未解決事件が静かに再び動き出した。そこにはそれぞれの暮らしが日常があっただけー何処かで誰かと雑踏の中で同じ時間を共有しても、それはただすれ違っただけかもしれないし、向き合って同じ時間を過ごしても、感じる事はバラバラだったりするんだ。それはごく些細な、けれど、あの頃はそれが全てだった狭い世界での事・・合田刑事久しぶりです。そう、未解決事件の関係者はそれでも日々を生きている。何故、老絵画教師が殺されたんだろうー2019/08/29
ウッディ
230
殺人事件の被害者朱美の遺留品から、12年前、美術教師が殺された未解決事件の再捜査が始まる。迷宮入りさせた刑事の悔い、当時中学生だった関係者の衝撃、時が経過し、薄れゆく記憶の中で、パズルのピースがはまるように、事件の全貌が見えてくる。丁寧すぎる状況描写になかなか頁が進まず、イライラしましたが、1つの出来事をきっかけに記憶が繋がり、全貌が明らかになるというプロセスが楽しめました。将来の夢や淡い恋心を抱いていた中学生達も12年経つと別々の道に進み、現実と向き合うことになる。そんな儚さを感じた一冊でした。2020/01/16
パトラッシュ
196
髙村薫の連載小説は単行本で読む。人生に煮詰まった濃厚なキャラばかりで、連載だと誰が誰だかわからなくなるから。そんなストレスの塊となった水沢裕之も野田達夫も物井清三も吉田一彰も島田浩二も最後に大爆発するのが髙村作品の面白さだったが、21世紀では消えてしまった。本作では逆に爆発して教師を殺したと思われながら生き永らえた果てに惨めな最期を遂げた元少女Aの過去を、合田をはじめ関係者が追跡するも不明なまま終わってしまうのは爽快感に欠ける。それにしても作者は、なぜ第七係シリーズやヨゼフ断章をいつまでも本にしないのか。2019/08/16