内容説明
1950年代アメリカで花開いた、ペイパーバック・オリジナルの娯楽小説界。そのなかにあって『おれの中の殺し屋』『ポップ1280』をはじめとする凄まじい作品を矢継ぎ早に放ち、社会と人間の暗黒を描きつづけた、孤高のノワール作家、ジム・トンプスン。いまなお鮮烈な衝撃をあたえつづけるその世界を、内外の読み手たちが多角的に検証。また、トンプスン自身の作品から、その知られざる側面を掘り起こす。本邦初のトンプスンガイド。
目次
トンプスン世界の展開
アルコールにおぼれる作家人生を語る自伝的作品 酒びたりの自画像
トンプスンの時代
トンプスン世界が爆発する鮮烈な未完成中編 深夜の薄明
トンプスンとは何者か?
トンプスンを読む
パイプライン労働者の体験にもとづく最初期の作品 油田の風景
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
harass
71
この特異な作家の特集本(2005)全作品リストや映画ドラマシナリオや没作品紹介。3つの初訳短編やエッセイなども。『安物雑貨店のドストエフスキー』と名付けたジェフリー・オブライエンの評論や、ジェイムズ・サリスの評論、日本人では小鷹信光や仏での評価の高さを語る中条省平、ナボコフ『ロリータ』と『おれの中の殺し屋』の共通点を語る若島正などだ。正直、彼の作品をある程度読んでいて、ノワールものなども知っているマニア向けの内容。初めて知ったがトンプソンの評伝本が2つも出ているようだ。翻訳はでないものだろうか。良書。2018/10/11
トンボ玉
9
永遠のゼロの感動からもっと詳しくと戦記物へ行くはずが、読めぬ。戦記物の読みづらさ。(泣) 今興味あるパルプノワールへとつい手が伸びる。「安物雑貨店のドストエフスキー」!。カッコイイ!2014/04/10
タナー
6
トンプスンの作品に初めて触れたのは昨年の3月、「ポップ1280」だった。その語り口や独特な描写に衝撃を受け、それから日本で翻訳されているものは全て読んだと思う。そしてその頃から探し続けていたのがこの1冊だ。彼が作品を描き続けていた時代背景や、当時活躍していた他の作家などなど、ジム・トンプスンという孤高のノワール作家についていろいろと知ることができた。今更言うまでもないが、50年以上の年月が流れた現在でも、彼の作品は輝き続けており、また衝撃的でもある。翻訳されてない作品も、いつか日本で刊行されて欲しい。2015/09/12
ra0_0in
2
「上昇からの落下」というノワール(や先駆としての自然主義)に典型的な主題ではなく、トンプソンにおいては「現状維持と落下」の主題と「穴に落ちる」イメージが頻出することを指摘する矢口論や、日本での翻訳出版事情を通じて「分類できない作家」トンプソンのノワール性を浮き彫りにした霜月論などが白眉だった。映画やテレビなど脚本家としてのトンプソンの仕事がリストアップされているのは嬉しいが、小鷹の想い出話に数十頁を費やすくらいなら、肝心の著作について各作品の解説などを載せたほうが良かったと思う。「最強」は言い過ぎ。2014/05/23
izumiumi
2
最高。いまや「ドライヴ」原作者として有名になったジェイムズ・サリス、多彩な表現の場をもつ彼だからこそのトンプスンへの評価は面白い。「油田の風景」、「酒びたりの自画像」も三川基好訳で読めて嬉しい。トンプスン関係の映画データベースはすごく役に立った。2013/05/01