出版社内容情報
木苺谷に住む私と狼トプの、少し不思議で優しさに満ちた日々を描く。どこか懐かしく癒されるひとときのファンタジー!「トプ、願いごと、した?」
「したよ」
「どんなこと?」
「同じこと」
木苺谷に住む私と狼トプの、少し不思議で優しさに満ちた日々。〈香草採り〉〈星祭りの夜〉〈木琴森〉〈鏡の泉〉……うつりゆく四季の中、静かな森の暮らしが美しく詩的なモチーフで綴られる。どこか懐かしく癒されるひとときのファンタジー! 短編二十五編を収録。
もくじ
花の下で 006
ランタン野菜の季節 011
ドラゴン・クリーク 017
100万年オルゴール 022
汽車に手を振って 028
星祭りの夜 034
雲のレストラン 040
木琴森へ 046
焚き火においで 051
冬の魚たち 058
風の月のスープ 064
ハッピー・バースデイ 069
金曜日は船の日 074
ワルツの薔薇 080
銀色たんぽぽの夢 086
果実時計 092
月とヨー・ヨー 098
水の王国 104
秋のソナタ 110
木の実は森に 115
まわれ水車 120
鏡の中の粉雪 125
夕焼けのむこうの国 131
鳥のように 136
船のゆくえ ――あとがきにかえて 142
竹下 文子[タケシタフミコ]
著・文・その他
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
やすらぎ
151
森の香りと静けさが冷たい指先を包む。こんな午後はまたとないのに、花を見ているのは私しかいない。息をひそめて待っている。…幻想的で癒しの世界。どこか詩的でどこか懐かしい短編集。ご注文は?ひこうき雲。まもなく南行きの便が空を通ります。…花、貝殻、星、雲、風、炎、森、水、月、音。自然を感じる物語。一年に一度、この日は特別な日。このときを待ちわびている。そして明日からまた旅を続けるだろう。澄みきった柔らかく広がる響きに乗って、たんぽぽの綿毛のようにどこまでも自由に。今朝も深い森には新しい季節の音が奏でられている。2021/10/22
榊原 香織
86
木苺谷に住む”私”の相棒は、金色の目のオオカミ、トプ(やや気まぐれ) 夜道を歩くときは月見草の薄明かり、や、色とりどりのランタン野菜。 童話。 静岡県在住らしい。同県人の風鈴丸(ファンタジック木版画)さんの挿絵と合わせたいような2020/12/12
モリー
68
私にとっては、食べ慣れない異国の料理を初めて口にしたときのような新鮮味がありました。今回は、幻想的で詩的な世界になかなか入り込めませんでしたが、「秋のソナタ」だけは例外です。木漏れ日のさす森の中でピアノの演奏を聴いているような心地よさを味わいました。ピアノに関して無知な私ですが、妻が実家から持ち込んだピアノを毎年調律してもらうようになって以来、一つ一つの鍵盤に乗る音に敏感になっていたからかもしれません。「高音部の鍵盤に、彼は渓流のせせらぎを置いてやる。ほてった頬を冷やし、乾いた喉を潤す水の流れ。」下に続く2022/03/05
佐島楓
59
選び抜かれた言葉たち。自然への深い敬意と感謝、あこがれ。静かで居心地のいい世界。明るく、希望に満ち、さびしい。2018/12/06
penguin-blue
48
読み終えて最近花や葉の色の美しさや、空の色や、風の匂い、そういうものにとんと鈍感になっている自分に気がつく。秋なのに。ようやく暑い夏が終わり、ひんやりした空気の心地よさや、抜けるような空の色や、形を変える雲に季節の移ろいを感じ、美味しいものがいっぱいで実りの秋の喜びを感じる季節なのに。秋が終わってしまう前に木苺の谷の近くまで行けるだろうか。雲のレストランを訪れるのは今年は難しくても。冬ごもりの季節の前に、秋の空気を胸いっぱいにため込むことはできるだろうか。2019/09/29