内容説明
孤独で嘘つきな、美しい女性、しおん。人なんてもともとほんとじゃないのよ、そう言う彼女は、次々と物語を紡ぎ出す。自分の生まれのこと、恋人のこと―幼馴染の私は、一緒に台所に立ち、しおんの話に耳を傾ける。印象深いフレーズと挿絵が響き合う、うつくしい物語。
著者等紹介
江國香織[エクニカオリ]
1964年、東京都生まれ。『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で第15回山本周五郎賞、『号泣する準備はできていた』で第130回直木賞を受賞
守屋恵子[モリヤケイコ]
1964年、横浜市生まれ。イラストレーター(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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吉田あや
84
きわだって孤独で、きわだって美しく、ひどく嘘つきのしおん。みんなに嘘つきと云われても「人なんてもともとほんとじゃないのよ」と平気な顔をする彼女にとって、嘘は物語であり、物語は真実である。夕闇の川を漂うざくろの無数の果肉の粒のように、妖しい光を放ちながら生まれる嘘の数々は、作為的に生きる私たちに眩しく作用する。江國さん紡ぐ美しい迷路のような幻影を魅惑的に象ってくれる守屋さんの絵は、不安と恍惚を混ぜ合わせたシュルレアリスムのように静謐で、孤独で、それでいて開け放たれた窓のように開放感に満ちていて麗しい。2020/03/20
あつひめ
44
守屋さんの絵がステキ。江國さんのつく嘘をより一層引き立てている感じ。西さんの解説もスパイスのように効いているし・・・。短い中で、思う存分「嘘」や「孤独」をこれでもかと読者に突き付ける江國さん。それは挑戦的ではなくさりげなく・・・。やっぱり、この絵があるから物語が引き立ちこの物語だからこの絵が合うのかもしれない。2012/09/19
ほほほ
36
絵本。嘘つきで孤独な美しい「しおん」と、そのしおんと幼稚園からのお友達である「わたし」のお話。もっと若い頃なら、この話、すんなり共感できたと思うけど…。自分も大人になったというか、ずるくなったというか、世間に迎合するようなものの見方になってるんだなと思いました。それでも、女友達との会話はこの2人のようにかみ合ってなくて、どうせわかんないだろうなって確信犯的にごまかすようなところはいつまでもある。「人なんてもともとほんとじゃないのよ」不穏でありながら、どこか強烈に安心する、江國香織さんの言葉でした。2014/09/17
紅香
34
『しおんは孤独です。冬の空と同じくらい、もしくはプラスチックのコップと同じくらい孤独です』私がもっともらしく、まじめな顔をして「嘘よ」と言うまで語る言葉はきっとほんとうのこととしてあなたはそれを受け止める。なんだ、人はまったくあてにならない。ほんとうはすぐにいたんで嘘に変わる。ほんとうは一瞬すぎて誰も掴めない。好きから嫌い。嫌いから好き。笑ってるのに、泣きたいくらい孤独だ。2015/12/22
lonesome
34
嘘だけど本当。本当だけど嘘。そういうことってあるよな。わかるけどわからない、わからないけどわかるみたいに。そして、西加奈子の解説がよくぞこれだけの長さの物語からここまでってくらいヒントを与えてくれます。大好きだけど大嫌い、会いたいけど会いたくない、そんな感情に身に覚えがある。この物語の存在自体を疑えばいろいろな読み方が出来る面白い作品だなと思う。2013/11/17