内容説明
「廃墟」とは何か。近代産業遺産、廃業した遊園地やホテル、廃村や廃校など、現代において「廃墟」はたびたびブームとなり、人々の心を強く惹きつける。そしてひとたび、古典の世界に目を向ければ、古都や古代寺院の遺構、絵画・記録・物語や伝承などに遺された荒廃した町並みや建造物など、さまざまな廃墟表象が見いだせる。「廃墟」はなぜ描かれ、語り継がれたのか。そこにはどのようなイメージ、意図が込められていたのか。人々は「廃墟」に何を託したのか―。これまであまり考察されることのなかった、日本の廃墟表象を捉え直し、文学・美術・芸能など様々な視点から、古代以来連綿と人々が廃墟と共存した様相や、廃墟が文化の再生・胚胎を可能とする機能的な場であることを明らかにする。日本の歴史・文化史に立脚した廃墟をめぐる新たな視座を提供する挑戦。
目次
第1部 廃墟論の射程(「廃墟」の創造性―歌枕・紀行文・『方丈記』;『うつほ物語』における廃墟的な場―三条京極の俊蔭邸と蔵の意義;廃墟に花を咲かせる―『忍夜恋曲者』の方法;西洋美術史における廃墟表象―人はなぜ廃墟に惹きつけられるのか?;言葉としての「廃墟」―戦後文学の時空)
第2部 廃墟の時空(廃墟と霊場―闇から現れるものたち;廃墟と詠歌―遍照寺をめぐって;夢幻能と廃墟の表象―世阿弥作“融”における河原院描写に注目して;廃墟に棲まう女たち―朽ちてゆく建築と身体;廃墟になじめない旅人―永井荷風『祭の夜がたり』)
第3部 廃墟を生きる(承久の乱後の京都と『承久三、四年日次記』;廃墟の中の即位礼―中世の即位図からみえるもの;五山文学における廃墟の表象;戦争画家たち―それぞれの「敗戦」;廃墟としての金沢文庫―特別展『廃墟とイメージ』の記録)