感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
とみぃ
3
地に足の着いた―なんて言葉があるけど、そういうことを思う。一朝ことがあったとき、何かに駆り立てられる思いで、現場に駆けつける。そうして何かを見て、何か本質を得たかのように思う。もう少し卑近な話ならば、有名人のコメントを聞いて、我が意得たり、よくぞ言ったと合点する。そうした事態って、交通とか、メディアが発達してできるようになった、新しい事態なんであって、それ自体がどうのこうのっていうことではなくて、そういう様式とは違う物の見方、愛着を「異」へと折り返して練り上げる考え方の模索、っていうかそんなことを思った。2016/04/29
編集兼発行人
1
多方面に渡る思考の数々。江戸の拡大に伴い低所得者層を押し遣った周縁部が東京への変遷に伴い中心部への抵抗感覚を養う場として形成されてゆく過程。都市における来訪とも退去ともつかない他所者を貫く「常住の旅宿」感覚。表層の絶え間ない交代(=新しさ)が廃墟を常に先取りする近代。述語から主語への多方向性を自己への一方向に限定する統合失調症者の感覚。伝承体が崩壊した世界としての米国。一体感の亀裂から顔を出す弱者。名状しがたい状態(=隠されたもの)への名付(=可視化)が齎す変形。微細な物象事象心象を丁寧に言語化した賜物。2013/03/13
zirou1984
1
「一言でいってしまえば、現在において批評が可能であるとすれば、それは追悼行為としてではないか」―そんな印象的な言葉から始まる思想家・市村弘正の初期エッセイ集。学生時代に読んだ氏のあるエッセイは自分の人生観に多大な影響を及ぼしているのだが、5年ぶりに彼の著作を読み返しやはりそれは間違いではなかったと改めて確信する。弱さに寄り添い失われようとする声に耳を傾け、名付けられなかった者を偲ぶこと。それを丁寧に、重層的に意味と感性を込めてに表そうとすること。市村氏が紡ぐ言葉は、自分にとって未だ希望であり続けている。2012/07/10
gorgeanalogue
0
再読。ポストトゥルースなどというような言葉が平然とキーワードになるような時代にあって、市村氏の危機についての感受性はますます鋭い光を放つ、というありきたりの感想は、まあいいとして、凝縮された文章の味わいは古びない。今回印象に残ったのは、「回想」を「経験の再結晶」と「名づけて」いる部分であった。吉増剛造の解説がアクロバティックに面白く、おもわず笑ってしまった。2017/12/31
なか
0
苦手な分野なのでさらっと通したぐらい。PP99-109「失敗」の意味、PP132-159「名付け」の精神史辺りは興味深く読んだ。綽名についても面白いので適当にまとめておく。「綽名は他者を変形させる名前で、侮辱と愛着と賞賛を含み、相手への高い批評力を伴う。相手の核を知りそこに的中させなければ嘲笑や揶揄の効果は薄いので悪態・非難に関してはさらに批評力は高く、相手への最大の関心・観察が必要である。その能力が低いという事はお互いに関心が薄い社会である事、文化水準の低さを意味する。」2016/06/06