出版社内容情報
若くて可愛い女の子、いつまでそう扱われるの? 愛され守られたい、自立し強くありたい、無関心で平穏に過ごしたい――3つの本心に引き裂かれながら、社会が望む女性像に擬態して生きる森。その異質な気配に気づいた職場の同僚に声をかけられるが……。一人の女性が見つめる世界の歪みと、その先の希望を克明に描いた物語。
内容説明
歯科助手のアルバイトをしている森。彼女の中では三人の「わたし」の意識が、めまぐるしく移ろう。相反する内側の声に引き裂かれる森は、仕事が終わるとスマホでゲームの世界に逃げ込むのが常だった。ある日、職場の「新人くん」が同じゲームをしているとわかり、彼とゲーム内で“友達”になるが…。可愛いに呪われ、強さに囚われ、諦めに蝕まれ、その果てにあるものとは―?一人の女性を通して描かれる世界の歪みはきっと、わたしたちの現在地だ。
著者等紹介
伊藤朱里[イトウアカリ]
1986年生まれ、静岡県出身。2015年、「変わらざる喜び」で第31回太宰治賞を受賞。同作を改題した『名前も呼べない』でデビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夢追人009
266
歯科医助手のアルバイトをしているヒロイン・森の心の中には気弱で状況に合わせるサイン、強気で毒舌を吐き否定するコサイン、ぶつかる二つの意見をまあまあと調停するタンジェントの3つの人格がいてどんな状況にも対処します。本書の良さは、この3つの人格のやり取りが、まるで掛け合いのトリオ漫才みたいな抱腹絶倒の面白さがある点で、多重人格者からイメージされる暗さが全くない事ですね。中年の院長と「直線」「曲線」の性格が真逆で険悪な仲の女性の先輩二人と大学生男子「新人くん」達と過す毎日で家ではスマホの農場ゲームに没頭します。2023/04/05
そら
76
歯科助手を勤める女性の中には【サイン・コサイン・タンジェント】と言う三人の人格がある。ことあるごとに、三人がそれぞれの主張をし、その会話と思考が綴られる。女性としての生きずらさなどが本題なのだろうが、前作よりも伝わりづらく、内容に入り込めなかった。職場での2人の真逆な性格の先輩たちを【直線・曲線】と呼び、そのネーミングセンスは面白いと思った。読了したが、腑に落ちずなんだかスッキリしない。2023/05/08
kei302
67
サインとコサインとタンジェント、内なる自分の声が三人分の感じ方や考え方で脳内がいっぱいになる状況に始終支配されている歯科助手の森さん。女性であるというだけで弱々しいと受け取られ、威圧されたりする一方で、若くはない自分が「かわいいもの」を好み、気持ちの中に「守られたい」意識があることも自覚している。弱い(外見の)人間は標的にされやすい。標的にされたとき、その怒りの矛先を向ける相手は弱そうに見える人とは…。そうやって生きていくしかないんだよなあ。ひどい連中ほど、ふつうの顔をしている嫌な世の中です。2023/03/27
ゆのん
67
歯科医院で働く主人公。読み始めから『何やら複雑でしんどそうな主人公だな』と思った。彼女の内には3人が存在しているのだから。読み進めていくうちに私自身も辛くなってきた。信じたくない事だが主人公と自分が似てる部分がある。常々『生き辛い』と感じていたが何故だかは不明だった。その答えを突き付けられた感じ。答えがわかった喜びはなく、むしろ驚愕に近い。人は自分が思っているよりも複雑なんだと知るのはショックに近い。一方で『自分だけじゃない』という安堵もある。読み手によっては衝撃的な作品なのではないか。2023/03/27
pohcho
62
女の子らしいサイン、強気なコサイン、調整役のタンジェント。歯科助手として働く彼女の中には常に3人の自分がせめぎあっている。職場には中年男の院長と先輩が二人(直線さんと曲線さん)そこに院長の甥である新人くんが入ってくるのだが・・。最初は若い人の話と思って読んでいたが、途中からどんどん引き込まれた。昔ながらの価値観を押しつけてくる人、自分の弱さを盾に周囲を攻撃する人、どちらも「自分が正義」なんだよね。よくわからないところもあったけど、考えさせられる内容でとても面白かった。2023/05/24