出版社内容情報
「一本気な好漢」ではなく「したたかな謀略家」謙信。「野心的な天才」ではなく「孤独な忠義者」信長。史料を見直しその実像を描く。
内容説明
天正5年(1577)、上杉謙信軍と織田信長軍が加賀・手取川で激突。史料に乏しく「幻の合戦」と目されている手取川合戦である。もともと謙信と信長は長らく友好関係を結んでいた。両者は何を理由に友好関係を結んだのか。それがなぜ破綻して軍事衝突することになったのか。合戦後両者はどうなったのか。本書では気鋭の歴史家が、両雄の生涯を史料に基づいて丁寧に綴り、最後に手取川合戦の経緯を復元。「手取川で最後まで奮戦したのは羽柴秀吉だった」「謙信が企んだ上洛作戦の全貌」などこれまで誰も気づかなかった新事実を語る。
目次
序章 武田信玄の遺策(武田信玄、群雄を揺さぶる;西上作戦の経略 ほか)
第1章 上杉謙信という男(戦鬼・長尾為景;長尾為景の動乱鎮圧 ほか)
第2章 織田信長という男(弾正忠信秀の台頭;信秀の病死と信長の相続 ほか)
第3章 信長の「根切」と謙信の「悪逆」(謙信の家中改革と加賀一向一揆;上杉軍の越中平定 ほか)
終章 そして手取川合戦(手取川合戦の全貌)
著者等紹介
乃至政彦[ナイシマサヒコ]
歴史家。1974年生まれ。高松市出身、相模原市。書籍監修や講演でも活動中(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
六点
117
なんだかタイトルが不穏な掛け算ぽいのだが、全く堅実な啓蒙書である。手取川の戦いについては終章のみだが、極めて説得力に富んでいると言っても過言ではない。上杉謙信、織田信長それぞれの祖父の代から記述を始めているため、どうして彼らに権力が継承されてきたのか、よほど理解がしやすい。商業地の整備振興など、興味深い事実も学ぶことができた。著者の意見に対し、反論がどう為されるか楽しみである。ご一読をおすすめする。2023/06/27
パトラッシュ
106
諸大名の思惑が衝突した果てに、謙信軍と信長軍が衝突したとされる手取川合戦が起こるまでを跡付けていく。まず互いに立場の弱かった信長と謙信が同盟を結び、謙信を裏切らせようとした信玄の外交は失敗したが、信玄の工作で信長を見切った義昭は逆に京を追われ幕府は滅びた。ここに至って信長の天下への野望を察した謙信は方針を転換し、長篠で敗れた勝頼を支援したため同盟は破綻した。反上杉の伊達に挙兵させようとした信長の外交が頓挫したため、手取川で両軍がぶつかったのだ。従来にない外交の視点から戦国史を考えるという補助線を提示する。2023/06/21
みこ
26
信長と謙信の足跡を二人の親の代から語る。上洛後の信長は将軍を支え幕府を立て直そうとしていたことはもはや定説となりつつあるが、それは謙信のようにもとから幕府に忠節を尽くした武将と気脈を通じることでもあった。三方ヶ原から信玄の死を経て長篠の合戦までその裏で謙信がどう動いたかを解き明かす。この時代を織田VS武田と局地的な視点で観ずに畿内から関東甲信越までの広い視野で眺めたからこその新説は事実を俯瞰的に見ることの大切さを教えてくれる。2023/06/17
HaruNuevo
15
書名にある「手取川合戦」はおまけのようなもので、謙信、信長それぞれの歩みを、新説も織り交ぜながら論じた本だと言えよう。 時に協力しあい、そして最後には決裂していった謙信、信長の姿を対比させつつ、関係性を明確にしつつ読むことが出来る内容だった。 証拠と論理を緻密に組み上げながら論ずる一方で、信長が魔王化した理由をかなりざっくり乱暴に述べていたりするように、突然論じ方が様変わりするようなところもあるのはご愛嬌か。2024/02/27
春風
15
合戦自体の存在から疑われる手取川合戦。史料が少ないためか、本書の大半は上杉謙信および織田信長のその関係性に重点をおいた伝記に紙幅が割かれている。本書のメインテーマである手取川合戦の論考は50頁程度。この論考では、信長公記および13点の二次史料を紹介しており、精度の高い史料とされるものから導き出さられる手取川合戦の実像が時系列で提案されている。一部、著者も陰謀論じみていると自覚のあるやや飛躍した論も中にはある。ただ全体的に手堅く纏められているので、手取川合戦の実像は本書の提案にかなり近いのではなかろうか。2023/05/31
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- 和書
- 握る男 角川文庫