出版社内容情報
戦後間もない昭和の新宿。珈琲店の二階に住むその美しい青年は、雨の日だけ探偵業を開く。周囲で起こる怪事件を鮮やかに解くミステリ。
内容説明
昭和30年代の新宿、珈琲店の二階に住む美しき青年・水上櫂が開いたその探偵社は、「雨の日だけ営業する」そう噂されていた―。櫂のもとに、大家で幼馴染の和田慎吾が「最近、自分の店子の会社で、郵便物の間違いが多くて、応対する受付の女性が困っている」と訪れる。慎吾が櫂に相談した三日後、その女性は失踪して…(表題作)。友人の死を悼む女性の真意を見抜く「沈澄池のほとり」、破格の条件が用意された学生カメラマン採用試験の謎に迫る「好条件の求人」など四作品を収録した連作短篇集。
著者等紹介
三木笙子[ミキショウコ]
1975年秋田県生まれ。第2回ミステリーズ!新人賞の最終候補作を改稿・連作化した『人魚は空に還る』(東京創元社)で2008年にデビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ひめありす@灯れ松明の火
81
雨が降る。雨が二人を隔てて、君の表情がよく見えない。君は今、笑っているのだろうか。顎を流れ落ちたのは、もしや涙の雫ではないのか。朧に霞む視界、君の姿が滲んだ。不意に君の姿は、空を目指す龍にも見えた。雨が、二人の男を隔てている。それは悲しい、別れの雨になったのだろうか。雨の色をパレットに塗りつける時、あの絵師は一体何を思ったのだろう。傘の分だけ、君までの距離が遠くて、傘を差しているから、君へと手が伸ばせなくて。二人ずぶ濡れになってもいいから、君を抱きしめたらよかった。「ありがとう、ごめん」伝えたかったのに。2013/10/26
ちはや@灯れ松明の火
81
共に過ごした故郷を映した湖は何処へと消え去るのか。街の喧騒を包む雨音と珈琲の香り、還る場所を失くした神域の護り手は穏やかに佇む。奪い取ったのは、この手。溶けることなく深く沈んだ咎、答えを訊けない問いを詰まらせて、それでも未だ傍にいる。空からの滴りと共に持ち込まれる謎。貼りつけられた偽善を落とす篠突く雨、別離の悲哀を覆い隠す小糠雨、癒えぬ過去へと突き刺さる氷雨。心の在処を、護るべきものを、探す。優しさと烈しさを湛えた水は空へ昇り、雨に姿を変えて此処へと還ってくる。傍にいる、これからも共に生きていくために。 2013/05/11
藤月はな(灯れ松明の火)
66
戦後間もない東京で雨の日だけ開業する探偵社を開き、なぜか雨、川、池と水と縁のある櫂とそんな櫂にとある罪悪感を抱く慎吾。慎吾は蟠りを抱きながらも櫂に付き添い、謎をひも解いてゆく。「月下の氷湖」での誠吾さんがいい人過ぎます。大切だからこそ、心が離れてしまった彼等もこれからも離れた分以上に幸せになってくれればいいのに。しかし、心を持っていかれたのは「好条件の求人」の最後でのある事実の仄めかし。ど、どういうことなのっ!?2013/08/09
のこ
63
切なさ優しさと哀しさで心がいっぱいになって読了。小雨の中で語られているような雰囲気と、雨音に消されるような終わり方。櫂と慎吾の今後も気になりつつ、二人の昔の話も読んでみたいと思いました。あと別シリーズの二人…!礼が出てきただけでも衝撃でしたが、第三章最後の一ページでそれまでの話が吹っ飛ぶくらいの衝撃を受けました。すでに泣きそう。2013/06/30
ダージリン
36
昭和30年代の新宿を舞台に、なぜか「雨天のみ営業」の噂が似合う櫂と、その幼馴染で実業家の慎吾が日常の謎(多分)を解決していく話。でも、気になるのは慎吾が櫂にすごい負い目を持っていること!最終話で謎が明かされ、悲しいけれど暖かい気持ちになりました。そして「帝都」とのリンクが意味深過ぎて・・・。2013/02/27