出版社内容情報
近代初のジェノサイド「アルメニア人虐殺」の真相を、産業構造の変化や西欧的人権思想とイスラム法社会の軋轢などから描き出す。
【著者紹介】
1963年生まれ。東京大学大学院修了。明治大学政治経済学部教授。主な著書には『ボスニア内戦』、『近代バルカン都市社会史』など。
内容説明
一九〇九年、なにが起きたのか、なにが民衆を暴力に駆り立てたのか。近代初のジェノサイドとして語られる「アルメニア人虐殺」の真相を、当時の農業生産の構造変化や農地の所有権をめぐる争い、大国の思惑、帝国主義と伝統国家の抵抗などの複合的な絡みあいのなかで明らかにしていく。
目次
序章 オスマン帝国とアルメニア人問題
第1章 アダナ事件を巡る陰謀論の系譜―「中東通」の学者たち
第2章 一九世紀のアダナ州―ムスリムとキリスト教徒の階層化
第3章 青年トルコ人革命とアダナ州―統一と進歩委員の夢と現実
第4章 隠された対立軸―難民、そして土地問題
第5章 アダナ市内の騒擾―一九〇九年四月
第6章 地方で発生した暴動と虐殺―暴力の連鎖
終章 アダナ事件とアルメニア人問題―陰謀論を超えて
著者等紹介
佐原徹哉[サハラテツヤ]
1963年、東京生まれ。文学博士(2002年、東京大学)。現在、明治大学政治経済学部教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
MUNEKAZ
11
オスマン帝国末期におけるアルメニア人問題の内、1909年に起きたアダナ事件に注目し、虐殺に至る複合的な要因を明らかにした一冊。ナショナリズムの勃興、宗教対立に留まらず、急速に構造転換を迎えた当地の経済状況や、行政の不適切な対応が重なったことによりコミュニティ間での対立が激化したことを事件の背景として指摘。「虐殺」を計画的なものと見る陰謀論を強く批判し、トルコ・アルメニア間の歴史戦にも厳しい目を向けている。「虐殺」という強い言葉に囚われず、フラットな視点で事件の本質に迫ろうとする著者の筆致には迫力がある。2021/08/10
kanaoka 57
9
トルコ政府によるアルメニア人のいわゆるジェノサイド問題として、1909年のアダナ事件に関する検証が丁寧になされている。 アダナ事件について、ジェノサイド論者の主張する規模、内容において大きな齟齬があり、特に、その原因が、トルコ政府によりジェノサイドとして綿密に計画的、組織的に実行されたというのは誤りである。西欧列強・ロシアの介入により、苦境にあったオスマン帝国末期において、様々な複雑系の要因の帰結として、アルメニア人虐殺が起こった。2019/09/08
Toska
2
「中東民族問題」と言ってもパレスチナではなくアルメニア問題。論点は、オスマン帝国末期に噴出した民族・社会的変動と、虐殺をめぐる陰謀論の大きく二つに分けられる。生き残りを賭けた近代化にあがきつつ、打つ手が尽く裏目に出て沈んでいく老帝国の姿が悲しい。陰謀論的なジェノサイド史観は否定されるとしても、なら結局どうすればよかったのか?という救いようのなさが残る。結局、あのような多民族帝国に未来はなかったというのが答えなのかもしれないが、オスマン的秩序の崩壊が今に至る様々な問題を惹起した事実もあるわけで…2021/10/02
Muhammad al Yabani
1
ジェノサイドやポグロムといったタームを無批判に使う事の恐ろしさを学んだ。2022/12/05
よしださいめい
1
アルメニアのことについていろいろな本を読んで、この本にたどりつく。 専門的な内容なので、(個人的には)かなり難しかった。 ただ、書名にあるように、現在の「中東」の諸問題が抱える起源とも言うべき「トルコ(オスマン帝国)とアルメニアの関係」、「アルメニア人虐殺」について、新たな知見が得ることができた。 史実の客観性の難しさ、歴史学の本質の一端に触れたような気がする。 良書だと考える。 (筆者のプロフィールにある他の本も読んでみたいと思った)2014/12/03