出版社内容情報
七月は灼熱の昼下がり、幻覚にも似た静寂な光のなか、ひとりの男がリスボンの街を彷徨い歩く。交錯する生者と死者、現実と幻想の世界。
内容説明
七月は灼熱の昼下がり、幻覚にも似た静寂な光のなか、ひとりの男がリスボンの街をさまよい歩く。この日彼は死んでしまった友人、恋人、そして若き日の父親と出会い、過ぎ去った日々にまいもどる。タブッキ文学の原点とも言うべきリスボンを舞台にくりひろげられる生者と死者との対話、交錯する現実と幻の世界。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
268
リスボンー憂愁に包まれて、倦怠の中に半ば眠ったような街。太陽も動きを止めたかのような真夏の午後。夜は濃い闇の中に角燈の灯りがほのめき、幽かにファドの響きが聴こえてくる。懐旧の想いと孤愁に満ちた主人公の前に現れる何人かの人たち。そこでは、死者は生者のように振る舞うが、生者の生は幻のごとくに薄く、また幾分か生気を欠いてもいる。イザベルーそれは誰だったのだろう。あるいは実在しないのか。柔らかなトーンで囁くようなポルトガル語は、この物語の語りには最適だっただろう。そして、物語の背後にはペソアの影が仄かに揺詠する。2014/12/06
nuit@積読消化中
127
あ〜、とてもとても好きな世界観。異界との会話、夢か幻か、うだるような夏の暑さの中で読むと更に臨場感があって良かったんだろうなと思う。色々奥深い解釈があるようだけど、私は素直にポルトガルのリスボンの街を酩酊状態で彷徨い歩いている気分に浸れただけで大満足である。『インド夜想曲』も好きだけど、本書は更にお気に入りとなりました。次は『遠い水平線』を読もうか。本当に“病みつきタブッキ”である。2017/10/24
Hideto-S@仮想書店 月舟書房
114
灼熱の太陽が降り注ぐ7月のリスボンを舞台に、ひとりの男が死者を訪ね歩く。友人、恋人、若き日の父親……こんな風に逢えるのなら、大切な人と別れる痛みも穏やかに癒されていくだろう。それがたとえ夢でも、幻覚でも、いい。作者自身がまえがきで述べているように、男が奏でるのは厳粛な『レクイエム』ではない。親しい人との出逢いに重々しいBGMは必要ないからだ。死者との邂逅の間に出会う生者にも不思議で印象的な人物が多い。安宿の客室係やハリーズ・バーで修行した国立美術館のバーテンダー、『物語売り』は、死者よりも朧げな存在だ。2016/02/14
青蓮
109
「インド夜想曲」が素晴らしく良かったので、こちらも読んでみました。「二十世紀最高の偉大な詩人」と会うためにリスボン市内を歩き回る主人公。そこで出会う様々な人達との邂逅は現実のようであり、全ては夢のようでもある。幻想の淵を歩むよう。読んでいると何だか悲しいような、愛おしいような、不思議な感情を覚えました。タデウシュとイザベルの関係や彼女の死の真相などは明かされないけれど、それが却って深い印象を与えているように感じます。素晴らしい物語でした。「優しさって、知らないひとにしてあげられる、最高の贈り物だよね。」2017/07/26
nobi
92
肉体から抜け出た魂が浮遊して見るような光景と、交わされる心もとない会話。誰もが自分の話を聞いてもらいたがっている。妙にディテールにこだわった取り留めのない話。それが延々と続く。鎮魂の語りとも見えない。もう本を閉じようか、と思い始めていた時動き始めた。一つ一つの言葉が透明で繊細な軟体動物のように身体に入り込んできて蠢き始める。姿と声が実体を帯びてくる。日常が物語性を帯びてくる。何度も鑑賞した絵が違って見えて、誘われたゲームから二つの奇跡が連動する。意外な展開で想像力が刺激される奥行きある世界が広がっていく。2018/12/24