出版社内容情報
失踪した友人を探してインド各地を旅する主人公、彼の前に現われる幻想と瞑想に充ちた世界。インドの深層をなす事物や人物にふれる内面の旅行記とも言うべきこのミステリー仕立ての小説を読み進むうちに読者はインドの夜の帳の中に誘い込まれてしまう。イタリア文学の鬼才が描く12の夜の物語。
内容説明
失踪した友人を探してインド各地を旅する主人公の前に現れる幻想と瞑想に充ちた世界。ホテルとは名ばかりのスラム街の宿。すえた汗の匂いで息のつまりそうな夜の病院。不妊の女たちにあがめられた巨根の老人。夜中のバス停留所で出会う、うつくしい目の少年。インドの深層をなす事物や人物にふれる内面の旅行記とも言うべき、このミステリー仕立ての小説は読者をインドの夜の帳の中に誘い込む。イタリア文学の鬼才が描く十二の夜の物語。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
562
須賀敦子訳のタブッキ。以前から読みたいと思っていた本。期待に違わず、独特のムードを持った小説だ。これは表題に謳われている通り、ボンベイ、マドラス、ゴアの3つの街のホテルを舞台に描かれるインドの夜の物語である。ここに登場するホテルも、タージマハールやオベロイといった最高級のものから、冒頭のカジュラーホのような、ホテルというよりは婬売宿までと落差が大きい。そして、それはまた小説に内包される夢幻と現実との落差や混淆とも響き合う。読者もまた、サスペンス仕立てのプロットを追ううちにいつしか迷宮に捉えられるのだ。2013/07/29
まこみや
185
物語の終わりに種明かしがある。この小説は物語ることを物語る、一種のメタ物語と言えるだろう。でも私が一番魅せられたのは、小説の「概念」ではなく、むしろ一つ一つの断片である。スラム街のホテルの売春婦の少女の話。床に真っ黒になるほどゴキブリのいる病院の医者との会話。少年に背負われた畸形の兄が語るカルマの預言。元郵便配達夫の語る海を見た話。どの断片にも、大きな物語が生まれそうな、わくわくするような魅惑と不穏な猥雑さが溢れている。確か石川宗生「バス停夜想曲」は、本書が霊感になったと語っていたように記憶している。2022/02/28
nuit@積読消化中
178
初タブッキ。最後に小さく「あっ」と声を出してしまった。まさかの展開に…自分の読み方が間違ってたようだ。まんまと私はタブッキにやられた(苦笑)。ボンベイ(ムンバイ)、マドラス(チェンナイ)、ゴアという都市を主人公に連れられてふわふわと彷徨うような気分で読んでいたが、最後にそうきたか。しかし、本書は普通の幻想譚ともミステリとも違う新しい世界を教えてくれたように思える。これは時を改め、また再読したいと思います。その前に著者の他の作品も読んでみたい!2017/09/26
seacalf
165
大好きな白水Uブックスの中でも随分も前から積読にしていた作品。色々なところでお勧めされてるので意を決して本棚から取り出す。やはり一筋縄ではいかない。訳者あとがきで「読者はこれまで試みられたことのない、新鮮な次元で物語が進行していくのに気がつく」とあるが、言い得て妙。夜想曲というタイトルの通り、杓子定規に読んでいると掴みどころがない不確かな世界にいざなわれる。神秘性がたっぷり漂うインドの夜の雰囲気を肌で感じながら不思議な世界に身を委ねた時間だった。2024/01/05
しゅう
128
失踪した友人シャビエルを探す「僕」は、インド各地を旅する。予言者は言う。「あなたは、もうひとりの人だ」と。「仮の姿にすぎず、幻影なのだ、大事なのは個人のたましいなのだ」と。徐々に明らかになるシャビエルの姿。最後にメビウスの輪は閉じられ、物語は終わる。小説を書く意味を世に知らしめたタブッキの代表作。2025/10/23




