出版社内容情報
伝統的文章と自動記述、文語と口語、客観的叙述と内的独白、写実と夢想を一つに混じて高らかに歌い上げる――超現実的な散文詩と直截な肉体描写とのあいだを交互に行き来する言葉の奔流――カミュがエロティシズムの領域における最も美しい文章として賛えた衝撃作。アンドレ・マッソンの挿絵入り。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
102
良い子のみなさんは読んではいけません。(笑)。出だしの部分はポルノ小説のパロディーみたいで笑える。それでもこの小説のクライマックスと言える男女間の性愛を目くるめく詩的言語で描く出す部分には、眩い美しさがあって読み手を強く惹きつける。喜び、哀しみ、悔しさ、惨めさ、陶酔感、切なさ、さびしさなど男女の性愛に関係があるすべての感情を投入して書かれた濃密な小説。ポルノと言えるのだが、『異邦人』のカミュがこの領域の文学で最も美しい文章と絶賛したのは当然だと思った。2014/02/01
nina
32
図書館で借りた際、裏表紙を表にして手渡され、ふと見ればそこには“Le Con d'Irene”と大きな文字が。ドキッ!として裏返すと、野中ユリさんによるカバー絵が美しいようなおぞましいようなでいかにも妖しげだけれど、こちらもまさに女陰に違いない。序文はマンディアルグで挿絵はアンドレ・マッソン、訳は生田耕作とくればもう文句のつけようがないが、参考としてブラッサイが30年代ごろに撮ったパリの娼館の写真は特に本書の前半部分の雰囲気をよく伝えているかも。優美なる女陰の逆襲にどこまでも降伏し、その幻に溺れたい。2014/12/03
梟をめぐる読書
16
原題〝Le Con d'Irene〟(イレーヌのコン)。〝Con〟は女性器。作者はルイ・アラゴンで確定されているが、本書が版元・著者不明の状態で市場に出回ったという経緯自体、現在まで続く「女性器」一般に対する社会的な抑圧を物語っているというべきか。即興、引用、回想、神話的変身の場面などあらゆる詩的言語を駆使しつつ、乱暴かつ繊細に女性器への憧憬が謳い上げられる。イレーヌ、それは愛でありながら両価的な反応を引き起こすもの、あらゆる詩的回路の源泉、喪失されたユートピア、すなわち男性にとっての、女性器そのものだ。2015/07/15
龍國竣/リュウゴク
2
いわゆる一般的な文章と自動記述とが混じりあう奇妙な、しかし美しい文字の羅列で紡ぎ出される、物語でも詩でもない創作物。エロティシズムの面ばかりが強調される向きがあるが、どこか切なさと女性優位の哀愁感が漂う深みのある作品だった。執拗な精神の果てにある純粋さ。 2012/12/29
午後
1
ロートレアモンのマルドロールの歌に、エロティックの要素をぶちこみまくったかのような作品。シュルレアリスム小説の代表作。アラゴンの文章は、不思議な確信に満ちていて格好良い。2016/12/19