出版社内容情報
ピーナツバターの正しい食べ方、日記を綴る妻のペンの音でその中身を聞き取る方法、コンマ記号の優雅な形態への熱烈な賛辞……傑作『中二階』をしのぐ極微的身の回り品観察小説!
内容説明
赤ん坊にミルクをやる二十分のあいだに、ひとりの男の脳裏に去来するさまざまな事柄を、顕微鏡的細かさと止めどない連想力で描いた小さな傑作。すこぶる斬新で、とてつもなく風変わりな小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
293
この作品は、まぎれもなく新しい小説作法によって書かれたものだ。まず、これは眼の小説である。作家は、語り手の眼前にあるものを、その細部および質感に至るまで言語によって捉えようとする。次には、本来は言語の領域に属さないイメージの範疇をも言語で表現することを試みる。ことには色感と音感である。ただし、ここでの語りはどうしても現実の芸術に頼らざるを得ない。音楽においては、クセナキスであり、ドビュッシーである。そして美術においては、例えばポントルモ。そして、本書のもう一つの側面は、日常に内在する夫婦の愛の模索である。2016/04/15
ケイ
131
週に3日育児のために家にいる父親。ベビーベッドの生後数ヵ月の娘に哺乳類でミルクを飲ませる20分の間の彼の回想が綴られる。目の前の娘の事から、妻との出来事、自分の幼少の頃へと語りは広がる。後半はむしろ家族を越えた事まで語り出すので、もっと娘の愛さしさを教えてくれないの?と口を尖らせたくなった。それにしてもゆったりとした時間だ。私が授乳中は、泣くのを心配しなくてすむ時間の一つだったと、自分の余裕のなさを自省する。2016/06/26
まふ
108
「小説の形を(少し)借りたエッセイ」というのが読後感想であった。「意識の流れ」のようだが似て非だ。音楽家を目指していた作者が挫折してマスコミのレポーターとなり、学生時代からの恋人パティと結婚して子供が生まれて半年という設定である。我が娘<バグ>をあやしているうちに心に浮かぶ「よしなしごと」を書き連ねる。それがわずか20分間の出来事というが、それは出来すぎだろう。語られるテーマは作者の高い教養に裏打ちされた「読ませる」内容である。いわば、この作品の価値の原点と言える。⇒2025/04/25
扉のこちら側
78
初読。2015年1019冊め。【48/G1000】主人公である若き父親が、生後半年の娘にミルクを与えて寝かしつけるまでの20分間のとりとめのない思考。週3日、家で娘の世話をしているという主人公の職業は明らかではないが、そこは問題ない。「純粋の色を美しいと思う気持ち15%」、色彩を感じる描写。鼻ほじりとピーナツバターが気になってくる。2015/08/26
NAO
71
語り手は、週2回勤務の家庭人。妻が勤めに出ている間、6ヶ月の娘をみている。この作品は、ミルクを飲みながら眠りかけている娘をベビーベッドに寝かしつけるまでの20分間の物語だ。その20分の間、語り手の思考は、娘のちょっとした動きなどから、さまざまな方へと流れていく。短いスパンで語り手が思い巡らせる過去のこと、現在のこと、今ここにはいない妻のこと、未来のこと。その思いは、常人の気がつかないことにまで及び、常人が気にしないようなことにこだわる。作者の狙いは、短時間でいかに幅広く深い思考ができるかにあるようだ。2022/03/03