出版社内容情報
近年中国では、広東・福建・新疆といった周辺地域が、各々の地域性と独自のネットワークでもって近隣諸国との間に経済的・社会的・文化的な交流を展開しつつある。北朝鮮・ロシアと国境を接する吉林省延辺朝鮮族自治州は、こうした地域の代表的な事例である。本書は、1997年から翌年にかけて、日中両国の研究者が同自治州で行った聞き取り調査の成果を報告する論文集。第1部では調査から得られた知見と資料をもとに、中国朝鮮族の社会的性格、アイデンティティの構造、文化的自律性と変容、移住と親族ネットワークを考察し、加えて文化と教育状況に関する基礎資料を整理。第2部は本調査の資料を整理したものである。家族の歴史、親族ネットワーク、家族の行事など中国朝鮮族の具体的な生活を窺うことができるとともに、中国社会の多元的な構造を考察することにもつながる1冊。
中国朝鮮族の……移住と定住の中には、朝鮮半島の南・北朝鮮族社会とは異なった論理、いわば「状況の論理」ともよべる論理がはたらいているのではないかと考える。これらを総合的に比較して検討するとき、朝鮮族の社会関係の構造的な共通性と、そして変容という複合的な姿を見ることができるであろう。そして、南・北の朝鮮が敵対から和解に向けての方向転換に努力を始めた現在、朝鮮族のアイデンティティの多様性は現実的な問題となっている。各々の歴史的経験の上に形成されたアイデンティティを互いに認めあう眼差しが、今日、最も切迫したものとなろうとしているからである。(「結語」より)
内容説明
本研究の目的は中国朝鮮族の家族の移住、ネットワーク、そしてエスニシティを研究することである。
目次
第1部 現代中国朝鮮族の移住とエスニシティ(延辺朝鮮族における周縁性とエスニシティ;現代中国の社会発展の中の中国朝鮮族;移動社会としての太陽鎮―一〇〇戸調査の分析結果から;延辺朝鮮族の移住と家族ネットワーク;中国における朝鮮族の文化と教育の発展概況)
第2部 朝鮮族家族の生活とネットワーク(吉林省延辺朝鮮族自治州の社会概況;龍井市太陽鎮とL村の社会概況;共同調査(太陽鎮L村の生活と家族ネットワーク―資料1;延吉市民の家族と生活―資料2;北京の朝鮮族市民―資料3))
著者等紹介
佐々木衛[ササキマモル]
1948年生まれ。九州大学大学院文学研究科社会学専攻博士課程修了。山口大学人文学部教授を経て、現在、神戸大学文学部教授
方鎮珠[ホウチンシュ]
1949年生まれ。延辺大学朝文系卒業。現在、延辺大学成人教育学院院長、副教授
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