内容説明
「ぼくは死んでるんです」マイケルは言った。「分かってますよ」レベック氏はやさしく答えた。ここはニューヨークの巨大な共同墓地。彼は十九年もの間、死者たちの話し相手としてここに暮らしてきたという。孤独に怯える彼らが、何もかも忘れて漂い去っていくのを見送りながら…。生と死の間をほろ苦く描く都会派ファンタジー。著者がわずか十九歳にして世に問うた永遠の名作。
著者等紹介
ビーグル,ピーター・S.[ビーグル,ピーターS.] [Beagle,Peter S.]
1939年ニューヨーク生まれ。1960年に21歳で『心地よく秘密めいたところ』を発表。1994年にThe Innkeeper’s Songでローカス賞を、2006年に「ふたつの心臓」(『最後のユニコーン 完全版』所収)でヒューゴー賞、ネビュラ賞の中編小説部門を受賞している
山崎淳[ヤマザキジュン]
1937年北海道に生まれる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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sin
86
秘密めかして内省的な幽霊達と、墓場に住まう隠者の物語…ファンタシーと云うには死者達は存在を諦めきれずに理屈っぽい。しかし肉体を離れて彷徨う彼らには思索しかする術はないのだろう。やがてその彼が異性の幽霊に惹かれいく流れは生への執着すら感じさせて俗っぽい…隠者にしたところが訪れる女性に感化されて、自らを封じ込めた墓地を離れる決心をするのだから、これはまさしくラブロマンス…その中にあって無償の奉仕を施す鴉の存在が印象的で、死んでいること、生きて或ることに後ろ向きな登場人物達よりよほど達観しているのが興味深い。2017/09/14
カフカ
66
生きること。死ぬこと。愛すること。ここにはそれらが穏やかに描かれている。共同墓地で19年間隠れて暮らす男。男に食べ物を運ぶ喋る鴉。墓地に亡骸が埋まっている男女の幽霊。亡き夫の墓参りに来る未亡人。そして墓地の管理人。墓地という静寂な場所で、それぞれの交流が秘密めいていて、まさに「心地よく秘密めいたところ」というタイトルにぴったりの物語だった。淡々と物語は進行し、なにか急展開があるわけではないのだが、優しさや切なさ、愛おしさで胸が締め付けられ、最後にじんわりと感動が押し寄せて来る。2023/05/15
ワッピー
27
カラスに養われながらヨークチェスター共同墓地に19年間住んでいた元薬剤師レベック氏は、新しい墓の住人マイケル、ローラの霊、そして墓参に来たガートルードとの交流、寡黙な墓守カンボスとの出会いにより、次第に孤独から引きはがされていく。マイケルとローラの恋が進行する中、マイケルの死因に疑義が生じ、遺体が別の墓地へ改葬されることによって、2人が引き裂かれてしまうとき、ローラはレベックに哀願する。19年も墓地に引きこもっていたレベック氏に何ができるのか?これが19歳の青年の処女作だとは、今再読しても信じられません。2019/05/30
かわうそ
25
物語の起伏は乏しくほとんど何も起こってないといってもいいぐらいなのにこんなに豊かで感動的。著者が10代の時に書いたとは思えない苦くて切ない大人の味わいです。2015/04/27
mizuha
19
著者の処女長編。ほとんどの場面は共同墓地内で淡々と進んでいく。生と死のあわいで描かれる、生者と死者の揺れ動く心。鴉が吐く皮肉で鋭い警句。本書の魅力は、じっくり読み込むほど増していくのではないかと思う。これを19才で書き上げたとは…驚嘆する。2014/11/13
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- 和書
- 天の刻(とき) 文春文庫