内容説明
「社会はより良くなる」という「進歩」の理想が失われ、右も左もいまや弱体化している―。200余年にわたるその過程を描き、地球規模の「正義」でなく、自らの現場から始める「ミニマルな正義」を推奨する、この時代の正義論。
目次
序論 「新しい貧困」と“正義”のミクロ化
第1章 市民革命と保守主義の誕生
第2章 進歩の歴史哲学
第3章 進歩と経済成長
第4章 進歩と社会的正義
第5章 ポストモダンと「歴史(進歩)の終焉」
第6章 ポストモダン的な不安と「正義」
著者等紹介
仲正昌樹[ナカマサマサキ]
1963年広島県生まれ。東京大学総合文化研究科地域文化研究専攻博士(学術博士)。現在、金沢大学人間社会研究域法学系教授。政治思想史・比較文学を専攻(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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yamikin
13
「右」と「左」の歴史的変遷。やはり冷戦崩壊が大きなターニングポイント。そして論座をきっかけに生まれた「赤木的問題」。従来の左が「左」から批判されるようになったのだ。お前らの正義は、ある特定範囲内の「正義」に過ぎない、と。そしてスミス的道徳感情の適用限界をロールズの正義論を援用して著者なりに乗り越える。近年蔓延るあらゆる「閉塞感」、それは進歩を前提にしているから生まれるものであるという最後の指摘。当たり前なのだけど、そんなことに気づかなくてはならないほどに今日の状況は閉塞したものなんだ、きっと。2010/11/08
takizawa
6
保守主義と革新主義の対立を軸に近代以降の思想史を振り返る入門書。左側陣営は経済成長(進歩)の行き詰まりにより弱い他者に目を向ける余裕がなくなり,右側陣営もグローバル化の進行により国民意識による統合を唱えることは難しくなった。ポストモダンの正義論においては他者の苦しみに対する共感をいかに調達するかが重要となる(どの範囲の人に対しどのような方法で共感するのが正統かを考えるようになる)。「共感の政治」という観点で近代思想を捉えなおす225頁~がとても面白かった。2011/04/03
Moloko
4
「右」と「左」の政治思想史、「歴史」と「進歩」の思想とポストモダン的な批判の政治哲学について解説した本。説明もだいたい噛み砕いてあって消化しやすく、赤木論文の「丸山眞男」批判も従来型の左派が擁護する労組の既得権に不公平感を顕にする若者達の一つの代弁というのも面白い。「右」か「左」かではなくて、グローバル化・普遍主義か反グローバル化・国民国家主義か、利益分配型(配分から外れる非正規労働者もいる)か承認型(赤木が言うにはナショナリスト的なアイデンティティも弱者の若者に魅力)かもトランプ現象の予言に近いのか2017/05/15
さえきかずひこ
4
読書会の課題図書にどうだろうと考えながら読んだ。第1章、第6章が心に残った。2016/11/28
seku
4
私が旧来の左右論争があまり好きではないのだが、それはどんな理論でもほとんど「カネ」の問題しか論じないからだ。パイをどう再配分するか。それも大事なんだろうが私の関心事からは遠い。人間はパイのみに生きるにあらず。そんなことに気づかせる良質な教科書でした。2010/12/29