内容説明
明治・大正・昭和前期の寄席文化の研究家・正岡容は、寄席を愛し、芸人を愛し、失われゆく東京風俗を愛惜した人であった。「この『東京恋慕帖』全巻をつうじて、兎角私は過去許りを談つた。それは徒らに感傷的な懐古癖からではゆめゆめない。私はふらんす文化と同じやうに、既往の江戸文化およびその水尾を曳いてゐる明治大正の市井文化の方が、御一新以来のかの薩長閥文化よりも科学的に余程高度だと確信してゐるからである」、そう本書を結ぶ正岡の思いは、かつての東京への懐かしさ慕わしさとともに全編を貫いている。正岡を師と仰ぐ桂米朝・大西信行・小沢昭一各氏の鼎談を巻末に収める。
目次
大正東京錦絵
旧東京と蝙蝠
東京万花鏡
下町歳事記
浅草燈篭
異版 浅草燈篭
巣鴨菊
滝野川貧寒
根津遊草
山の手歳事記
下谷練堀小路
寄席風流
著者等紹介
正岡容[マサオカイルル]
寄席芸能研究家、小説家、随筆家。明治37年(1904)、東京神田の生まれ。江戸から明治における寄席芸能への愛着と造詣には追随を許さぬものがあり、数多の著作もこの研究から発し、また、ここに集約される。寄席芸能の伝統保存と昭和における発展のために尽くした。昭和33年(1958)歿
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感想・レビュー
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ヨーイチ
9
青空文庫にて。チョット読むものがない時、重宝してます。青空文庫中の昔の本。2012/10/08
しんこい
2
江戸時代どころか戦前も遥か昔で面影はなかなか見つからないですね。巻末の鼎談で語られる作者自身の姿が、想定外に面白い。2011/07/24
読む羊
1
昔そこにあって今はもうない江戸・東京の風景が小気味よい文体で浮かび上がる。この本を読んで「陋巷」という言葉を覚えた。正岡容はその陋巷を愛し陋巷に生きた人だったのだろう。落語、講談、浪曲などのかつての演者・演目の資料的価値の高い記述も多く含まれている。2017/08/31
ノブ・グシオン
1
粋な芸人や川柳からかつての東京を恋慕するエッセー。講談師が365日で一物語の太閤記を毎日聞かせ、秀吉の命日は金を取らない、という意気や粋が美しい。2017/05/02