内容説明
「愛は十二世紀の発明である」―たとえば、この逆説とも響く主張を、ヨーロッパ中世文学の華、トルバドゥール詩歌や『トリスタン物語』を題材に検証するとどうなるか。あくまで同時代に流布したテクストから出発し、時代の文脈を逸脱することなく、中世人たちの愛と死、そして夢の世界を情熱的な文章で綴る、文学・歴史エッセイ集。
目次
中世の知識人―アベラールとその後裔たち
中世人と死
中世人と夢
中世人の法意識
中世の「近親相姦」伝承
愛、十二世紀の発明
司祭アンドレの『恋愛術』
モロワの森の恋人たち
ファブリオ、コント、ノヴェレ
ファブリオの世界
悪女伝『リシュー』
トルバドゥール芸術とアラビア文化
ある写本の話
海の星―Stella Maris
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
近江
1
12〜15世紀のヨーロッパの考え方について、文学の側面からを中心に切り込んだ本。トリスタン伝説のように書中に何度も出てくる有名物語もあれば、土着風俗のような話まで範囲は様々。中世ヨーロッパ人の世界観としてキリスト教観によって天国と地獄しかなかったところに煉獄の観念が生まれた13世紀の話や、ギリシャ時代の狂気や男色扱いから12世紀に発明された愛についても騎士道物、要するに障害を乗り越えるロマンスもののようなものが発明された経歴などがが興味深かった。2021/06/12
四号戦車
1
紹介されているファブリオ(笑話)の翻訳が非常に出来が良い。 参照に取り上げている「ロランの歌」や「トリスタンとイズー」もイメージが膨らむものばかりだった。2020/07/29
武井 康則
0
ローランの歌、トリスタン物語、アベラールとイズーなどのトルバドゥール詩歌から、中世人の恋愛、法、死生観などを読み解く。吟遊詩人、ケルトの影響、南仏の情熱など、まだ国家も貨幣経済も本格的でなく、過渡期の時代を読み解く。素人にも読みやすく伝説の類の基礎固めに良いかも。2017/07/26
j1296118
0
モロワの森の恋人達、秘薬の扱いの話が面白く、カーライル写本の断片読んでいないのを思い出してweb上の英訳を漁るの事。 『愛について』がえらい勢いで罵られてて読んでみたくなる。2015/09/28
しんかい32
0
中世フランス文学についての著者の評論を集めたもの。既存の学説の批判に多くページを割いているところなど、内容はマニアックだが論旨が明快なのですんなり読める感じ。やはりトリスタン関係のところが一番おもしろい。最後のエッセイはなんだったんだろ2011/11/17