内容説明
近世的なるものとは何だったのか―。平賀源内と上田秋成という同時代の異質な個性を軸にしながら、博物学・浮世絵・世界図・読本といったさまざまなジャンルの地殻変動を織り込んで、江戸18世紀の外国文化受容の屈折したありようとダイナミックな近世の〈運動〉を描いた傑作評論。1986年度芸術選奨文部大臣新人賞受賞作。
目次
はじめに 近世的なるものへ
第1章 金唐革は世界をめぐる―近世を流通するもの
第2章 「連」がつくる江戸18世紀―行動本草学から落語まで
第3章 説話の変容―中国と日本の小説
第4章 世界の国尽し―近世の世界像
第5章 愚者たちの宇宙―『春雨物語』の世界
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
うりぼう
23
2010年、私のベスト2位。私の想像力を遥かに超え、年頭からラッキー。昨年末に週間金曜日のシンポで田中教授を知り、ファンになり、本を買う。章を追うごとに面白さが広がり、最高が松田修氏のあとがき(田中先生すみません)。縦横無尽、正に松岡正剛の江戸語りを聴いているかのよう。金唐革に始まり、源内論、「連」による解体新書、中国・日本の「物語」る方法、「廃墟」を至上の美とする「源氏物語」、民衆の世界観、「俳諧」の方法に繋がる相対化の手法、源内の対極に「春雨物語」の秋成、秋成は、下降してゆく浮世、フラジャイルを見る。2010/01/08
紙狸
13
1986年に刊行され、92年に文庫になった。筆者は、若く、物知りで、構想力に富み、思いのたけを原稿に注ぎ込んだーーという印象を受けた。ついていけない箇所は多い。面白く読めて刺激を受けたところも多い。江戸時代を特徴づける人間関係「連」をあつかった第二章がしっくりきた。オランダ語の原書を翻訳して『解体新書』を出版したグループのメンバーも、それぞれ参加動機が異なっていた。例えば前野良沢は「蘭学をすることだけを人生の楽しみ」としている変人だった。現代に「連」は生きているのだろうか。2021/05/14
gorgeanalogue
10
結果的に犬叡知軽の煽りにうかうかと乗ってしまって、近世文学批評をポツリポツリ繙く。80年代の江戸ブームには何となく乗りそびれて早40年、本書も初読。今となっては80年代風テマティスムのあざとさはあるけど、香具師ながらの才気煥発、縦横無尽の遠眼鏡、ガルガンチュワばりの健啖貪婪。中ごろに位置する「誤解」のもとに生じた近世小説を論じる「説話の変容」、終章の秋成・源内論の沈静した雰囲気も効果的だが、もっとも面白かったのは列挙論の接続語批判のくだりで、これは近代文学批判のキーとして使えそう。もう誰かやってるか。2025/02/26
rokubrain
8
対象を徹底して突き放したような江戸人(天明期)の姿勢は輸入ものに留まらない。 それまでの確立されていた常識や古典(中国経由の)をも改めて客観視、相対化していく。(新しいものを決して絶対化しないところが習性のようである。結果、行き着く先に国学が出てきたのも、さもありなん)挙句に古典をパロディー化していく態度は、相対化のエネルギーがほとばしっている。 俳諧やそれを確立させる「連」というネットワークがこの時代の底流にあった。社会の大衆化と国際化(鎖国は形骸的)が同時に起こるときの人間の想像力の賜物なのかな。2015/05/17
akiu
4
平賀源内の不思議な活動を中心に、18世紀江戸の文化を語る本。硬くもなく柔らかくもない、独特の語り口で話は多岐に富みます。飛びすぎて着いていけなくなる部分も多々ありましたが、最後の松田修による解説が素晴らしく、内容を一本芯を通すようにまとめつつ、枝葉の部分も面白く語るという感じで、本書を見事に補完していると思いました。平賀源内、上田秋成に対する興味が湧いてきております。2012/02/14