内容説明
人は誰でも心の底に、さまざまなかなしみを抱きながら生きている。病や老いだけでなく、ほんの小さなことや、時には愛するがためのかなしさもある。今、大切なことは「生きるかなしさ」に目を向け、人間のはかなさ、無力を知ることではないだろうか。「生きるかなしみ」と真摯に直面し、人生の幅と厚みを増した先人達の諸相を読む。
目次
断念するということ(山田太一)
或る朝の(吉野弘)
覚悟を決める・最後の修業(佐藤愛子)
めがねの悲しみ(円地文子)
私のアンドレ(時実新子)
兄のトランク(宮沢清六)
二度と人間に生まれたくない(宇野信夫)
太宰治―贖罪の完成(五味康祐)
山の人生(柳田国男)
『秘められた日記』から(アンドレ・ジッド)〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kaoru
72
山田太一氏が編纂した数々の名文。佐藤愛子の「今は欲望の充足が幸福だという思い決めが横溢している時代」「諦念や我慢は恰も悪徳であるかのようだ」という『覚悟を決める』からの一節。「我々が空想で描いてみる世界よりも隠れた現実の方がはるかに物深い」(柳田国男『山の人生』)。谷崎潤一郎との戦中の交流を描く永井荷風の『断腸亭日常』。宮澤清六の『兄のトランク』。高史明の『失われた私の朝鮮』に改めて学ぶことが多い。巻末の水上勉の『親子の絆についての断想』では著者の哀しい生い立ちに嘆息。「人間の儚さ、無力を知ることこそ→2024/01/07
アキ・ラメーテ@家捨亭半為飯
61
脚本家・作家、山田太一の選んだ、人間が生きることのかなしさを描いた作品のアンソロジー。中でも初めて読んだ時実新子の『私のアンドレ』が良かった。私の中の女の部分が共鳴したのか。女のかなしみ、いや夫婦のかなしみか。このタイトルのアンドレとは、もちろん『ベルサイユのばら』のオスカルである。他にも貧困家庭のかなしみ、戦争のかなしみ、差別のかなしみ、母国語を奪われるかなしみ、家族を亡くすかなしみ、同性愛のかなしみ。どれも人間の愚かさ、どうしようもなさ、抗いようのない運命のかなしみの物語。2017/03/17
ネギっ子gen
60
【我が座右の書】筑摩『こころのアンソロジー』シリーズの、山田太一氏選。収録作は、詩人がシベリア体験を描いた『望郷と海』、水上勉氏の『親子の絆についての断想』など、選者のセンスが光る優れモノ揃い。『断腸亭日乗』は、選者の偏愛ぶりが窺われ、嬉しくなる。そして事あるごとに繰り返し読むのは、巻頭に収録された選者の『断念するということ』。特に次の記述。「大切なのは可能性に次々と挑戦することではなく、心の持ちようなのではあるまいか? 可能性があってもあるところで断念して心の平安を手にすることなのではないだろうか? ⇒2020/01/12
AICHAN
48
図書館本。再読。前に読んだことを忘れてまた借りてしまった。でも、内容はほぼ忘れていたので、新たな気持ちで読むことができた。山田太一編の「生きること」をテーマにしたアンソロジー。私は死病にとりつかれたら延命治療を拒否するし、死んだら葬式無用、戒名不要の意向を持っている。自然のまま生きたいし死にたい。そういう私にとって「うん、そうだな、そうだよな」というふうに頷くことの多いエッセイ集だった。太宰が殺人を犯していたという見方には唸った。2019/07/12
白玉あずき
39
山田太一氏の15編のアンソロジー。中でも「失われた私の朝鮮をもとめて」が真剣に泣けた。妻を亡くし幼い二人の息子を抱えた父。経済的困窮、重労働、植民地政策により言葉さえ通じなくなっていく息子たち。その孤独と絶望と憤怒。首を吊っても陋屋の釘が抜けて死に損なうという情けなさ。いちいち心に刺さって痛かった。その他にも親子の絆に触れた作品は心に迫る。我ながらどうも気が弱くなってるのかもしれない。2019/05/02
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