内容説明
我執と虚栄心のみ強く、他人を愛することのできない紫色の似合う女・藤尾の、凄惨な愛と破綻の姿を、絢爛たる文章とドラマティックな構成で描いて世評高い『虞美人草』。恋愛事件をひき起こして家を出奔した一青年の、周旋屋に誘われるまま入った足尾銅山での地獄の体験をつづった異色作『坑夫』。漱石文学において異彩をはなつ新聞連載第一作・第二作を併収。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
63
『虞美人草』と『坑夫』の2編がおさめられています。『虞美人草』は小説としては長くなくても成立しそうですが、美辞麗句により、ドラマチックな世界観が描かれていると思います。『坑夫』は『海辺のカフカ』に出てきただけあるので興味深く読むことができました。美文で描かれる物語に引き込まれずにはいられませんね。2020/05/21
tokko
20
「虞美人草」ストーリーの展開だけだったら200ページ程度で終わりそうなのに装飾的美辞が多い。それが甲野と宗近と小野、藤尾と糸子と小夜子という六人の綾なす錦のように、一種異様な雰囲気を醸成するのに一役買っているのか。「坑夫」『海辺のカフカ』で田村カフカ君が甲村記念図書館で読んでいた本だけれど、確かに坑道に入る前と後で主人公には何ら変化が認められない。そういう意味で文学的な評価は低いのだろうが、坑道や洞窟(や井戸)、暗く深い穴というのは何かしら人を惹きつけるものがある。2017/02/12
hitsuji023
8
「虞美人草」は悪い女のように書かれている藤尾がとてもかわいそうに思えてくる。一番悪いのは優柔不断な小野ではないか。端から見れば喜劇だが死によって悲劇になるということか。会話は面白いが話としては中の下くらいか。 「坑夫」はまだ社会に出ていない若者のやけになった心情がよく書けていると思う。鉱山に入ってからの描写や坑夫たちにからかわれるところなど孤独感を書くのがうまい。2016/07/09
あくび虫
7
『虞美人草』は後半から面白かったですけども、ラストは急展開すぎてピンときませんでした。前半は比喩が比喩すぎてなんのこっちゃ分からなかったです。そういう意味では『坑夫』は読みやすい。他の作品でも思いましたが、やはり生きるべきか死ぬべきかをすっ飛ばしているのが印象的。これはもう発明だなと。「生きるのはしんどい。でもどうやら生きるしかないらしい」という風に、変に飄々とした居住まい…ここに可笑しみがあって、不思議な味わいです。おかげでどんな内容でもさらさらいけてしまう。――漱石、面白いです。2022/09/10
Kaorie
5
「抗夫」は主人公がシキに入ってからが面白い。真っ暗な穴の中をカンテラの光一つでどんどん下に降りていくシーンが目に浮かぶよう。飯場頭、シキの案内をしてくれた初さん、道に迷った主人公を助けてくれた安さんが、ふとした時に使う丁寧な言葉遣いに、主人公と共にふとノスタルジーを感じる。ただ主人公が徹底して抗夫仲間を見下してるのは「おいおい」だなぁ。あと「虞美人草」はちょっと苦手。2013/11/07
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- 和書
- 少年の君 新潮文庫