内容説明
グローバリズムの矛盾が露呈し、新型コロナに襲われ、ついにはプーチンによる戦争が始まった。一体何が、この悪夢のような世界を生み出したのか―自由、人権、民主主義という「普遍的価値」を掲げた近代社会は、人間の無限の欲望を肯定する。欲望を原動力とする資本主義はグローバリズムとなり、国益をめぐる国家間の激しい競争に行き着いた。むき出しの「力」の前で、近代的価値はあまりに無力だ。隘路を脱するには、われわれの欲望のあり方を問い直すしかない。稀代の思想家による絶望と再生の現代文明論。
目次
序章 「ロシア的価値」と侵略
第1章 なぜ誰もがこんなに生きにくいのか
第2章 かくも脆弱だった現代文明
第3章 さらば、欲望
第4章 「民意」亡国論
第5章 ポスト・コロナ時代の死生観
第6章 日本近代、ふたつのディレンマ
著者等紹介
佐伯啓思[サエキケイシ]
思想家。1949年奈良県生まれ。東京大学経済学部卒業。同大学院経済学研究科博士課程単位取得。滋賀大学教授、京都大学大学院教授などを歴任し、現在は京都大学名誉教授、京都大学人と社会の未来研究院特任教授。『隠された思考』(筑摩書房、サントリー学芸賞受賞)、『「アメリカニズム」の終焉』(TBSブリタニカ、NIRA政策研究・東畑記念賞受賞)、『現代日本のリベラリズム』(講談社、読売論壇賞受賞)など著書多数。言論誌『ひらく』(A&F)の監修も務める(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
trazom
105
「名状しがたい不安感、危機感、窮屈感」に満ちた現代社会を佐伯先生と共有する。破壊された伝統的な道徳観、「民意」という亡霊、自己抑制・寛容・思慮・エリートの責任感という価値の喪失、独裁者を生み出す民主主義…。コロナが終息したら、再び、グローバル資本主義、経済成長主義へと回帰するのかと先生は問う。市場主義や効率主義や過剰な情報文化が、我々から思考能力や常識を奪い取っていた狂った時代へ、また戻るのかと。近代人の欲望こそが問題の本質であり、経済より大切なのは「死生観」だとコロナが教えてくれたのではなかったのかと。2022/07/27
紙狸
17
2022年刊行。佐伯啓思氏が朝日新聞などのメディアに寄稿した文章をもとにした本。初出は18年~22年。コロナ禍の時期にあたり、佐伯氏の思索は「ポスト・コロナ時代の死生観」に及ぶ。人間が死する存在であることを直視し、そこから行き方を照射することが求められているのではないか。伝統的な自然観、人間観に汲むべきものはある。例えば「気」とは、環境の不安定な動きを身体と精神にとりいれ身体と精神を調整する作用だ。個人レベルにとどまらず社会についても死者(換言すれば伝統、慣習、文化)を取りこんだ思想が必要なのではないか。2024/10/20
まゆまゆ
16
2018年から最近までの筆者のコラムをまとめた内容。半径数メートルにしか興味がない人たちの考えを民意とよび、その民意を利用して改革と称して行われた政策がどうなったのか、誰も評価できないでいる。アメリカ文化中心のグローバル化によって世界が複雑化している社会において、背景を深く洞察した上で政策を訴える政治家はいるのだろうか……2022/10/05
にゃんにゃんこ
12
資本主義の行き着いた結果、膠着した日本の状況を文化や歴史、政治、思想等の面から多角的に考察している。新潮45に連載されたコラム集。 深い内容で満足できた。他の著作があれば、読んでみたいと思った。2024/01/26
ほじゅどー
10
★★★ 資本主義は富や欲望の無限の拡張に適合したものであった。昨日よりも今日、そして明日はさらに豊かでなければならないという我々の意識があった。アメリカ主導のグローバル経済の終焉の現実。より多くの富を、より多くの自由を、より長い寿命を、より多くの快楽を求めた我々の欲望こそ問題の本質ではなかろうか。しかし、現代文明の隘路から脱出する都合の良い正解はない、と覚悟を決める。その上で、新たな価値を手探りで見つけるほかない。2022/10/23
-
- 洋書
- Babylon