内容説明
四歳の春。巨大団地を出て、初めて幼稚園に向かった。この四〇〇メートルが、自由を獲得するための冒険の始まりだった。忘れたランドセル、家族への違和感、名づけの秘密…。錯綜する記憶の中で、母に手を引かれ、世界を解明する鍵を探す。生きることに迷ったら、幼き記憶に潜ればいい。強さと輝きはいつもそこにある。稀代の芸術家による自伝的小説。
著者等紹介
坂口恭平[サカグチキョウヘイ]
1978年、熊本県生まれ。建築家、作家、芸術家、音楽家。2011年、震災をきっかけに新政府を樹立し、『独立国家のつくりかた』(講談社)を発表。14年、『幻年時代』(幻冬舎)で熊日出版文化賞受賞、16年、『家族の哲学』(毎日新聞出版)で熊日文学賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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kawa
28
才人ぶりが印象的な、私にとっては謎の人でもある坂口氏。「お金の学校」に続く2冊目読了。こちらは小説としての第1作目らしい。幼少時代の住んでた場所や家族・友達との交流の心象風景を・・・、なかなか手強い幻年、謎の仕上がり。しばらく自分の中で寝かして発酵する機会を待つとしましょう。2023/04/28
ぐう
2
坂口氏五作目。これは躁のとき書かれたものなのか、イメージの氾濫、その複雑性が精妙にカットされたダイヤモンドのよう。ざっと分類すれば懐旧録の体裁で、事物の記述も現実として受けとめられるものなのだが、その解釈は、どこまでが記憶で、どこからが追記された幻想なのか、確信はもてない。これをよくここまで構造化したものだと思った。「家族の哲学」には「緻密に織られた一幅の布」のような印象をもったが、こちらは本当にダイヤモンドの印象が似合う。数ミリの石の複雑さを察知し、どこまでも見つめ、描写しきった作者に、また頭が下がる。2017/01/07
yutaro sata
1
幼少期って、どうしてこう魔的、魅的なのでしょうね。2022/04/23
寺基千里
1
「当たり前」というレイヤーを疑う姿勢はこの4歳の頃から既に身に付いていたのだと思う。団地生活の中で、あらゆるものに触れて、疑問に感じて、行動に起こしていく。筆者自身は9歳までの記憶は生きる柱に直結していないと語るものの、これまで読んできた著作の中で登場した価値観にシンクロする部分があって、この頃の興味津々な姿勢は確実に物事の捉え方の核になっていると思う。そんな姿勢が鮮明に描かれる事もあり、そこから生まれる輝きが半端じゃない。たまには自分の幼少期も振り返ってみれば、忘れてしまっていた発見があるのかも。 2021/06/20
kaz
1
坂口恭平さんの初めての小説作品。4歳の時の記憶を元に、彼独自の世界の捉え方が描かれる。のちに『現実脱出論』で語られるように、「現実」として認識しているこの世界は多層な「現実」が複雑に折り重なったものであり、それぞれが時空を飛び越えて繋がっている。渡辺京二さんによる解説もよかった。石牟礼道子以来の天才だと評している。2019/06/28
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