内容説明
原爆投下のわずかふた月後、その後の核をめぐる米ソの対立を予見し「冷戦」と名付けた表題の「あなたと原爆」、名エッセイ「象を撃つ」「絞首刑」など16篇を収録。ファクトとフェイク、国家と個人、ナショナリズムとパトリオティズムなど、『一九八四年』に繋がる先見性に富む評論集。
目次
1(あなたと原爆;科学とは何か?;復讐の味は苦い;スポーツ精神)
2(絞首刑;象を撃つ;マラケシュ;右であれ左であれ私の国)
3(スペイン内戦回顧;ナショナリズム覚え書き;イギリスにおける反ユダヤ主義)
4(おいしい一杯の紅茶;本対タバコ;なぜ書くか?;ある書評家の告白;ガンジーについて)
著者等紹介
オーウェル,ジョージ[オーウェル,ジョージ] [Orwell,George]
1903‐1950。イギリスの作家・ジャーナリスト。イギリス植民地時代のインドに生まれる。イートン校卒業後、インド帝国警察官任官試験に合格しビルマへ赴任。5年の勤務ののち、ロンドン、パリで放浪生活を送る。1933年、はじめての著作『パリ・ロンドン放浪記』を出版。’37年、スペイン内戦に民兵として参戦。’50年、ロンドンで死去
秋元孝文[アキモトタカフミ]
甲南大学文学部教授。専門はアメリカ文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
151
ジョージ・オーウェルの考え方の明晰さ、偏見のなさ、判断力に感嘆し、私にとって最高の哲学書・指南書となった。現在の日本に当てはめるの膝を打つことばかりだ。左寄りのインテリの人に読んで欲しい。「これはあなたの事のようではありませんか。オーウェルの理論に反駁してみてください」と問いかけたい。ナショナリズムを分類化した上で行っている解説は見事。「ナショナリストにとってどの側が強者かは関係なく、自分がどちらの側につくか決めたなら、そちらの側が強者であると信じ込む」それは右寄りでも左寄りでも同じというのはまさにそう、2019/09/22
はっせー
149
本当に自分のためになれる読書をしたと感じる1冊だった! オーウェルさんの評論集を読むのはこれが初めてであり、彼自身を知るにはとてもいい本になっている。ナショナリズム覚え書きは今の世の中を生きる上に重要な考え方を提示している。自分だけが安全な部分にいて批判をするのは簡単である。だが、本質を掴むためには自分も批判される側になるかもしれないと認識することからスタートする。その言葉は今のコロナの状況においても言えることではないかと思った。他者として切り捨ててしまえば何も本質が見えなくなると思った!2020/05/17
藤月はな(灯れ松明の火)
96
『1984年』、『動物農場』という独裁国家に所属するものの本質を抉り出した作品で知られるオーウェルの評論集。当時の社会を見据えた眼差しはどこまでも鋭く、公平であり、何が本当か分からなくなりつつある現代へと照射しているかのよう。冷戦後の現代をも予見したような表題作、手段と目的の反転どころか、目的が腐敗臭を放つスポーツ界の欺瞞を述べる「スポーツ精神」の思考は研ぎたての剃刀のよう。「象を撃つ」は既読だが象に相対した事で躊躇うものの周囲の期待と「西洋人」としての面子によって象を撃つしかなかった事実の苦さが後を引く2019/10/22
サンダーバード@永遠の若者協会・怪鳥
77
「1984年」で近未来のdystopiaを描いたジョージ・オーウェルの評論集。「あなたと原爆」は題名もインパクトがあるが、原爆の投下から僅か二か月後に、米ロ中という三大超大国による支配、原爆を持つ国同士の危ういパワーバランスによる「冷戦」などを見事に指摘している。著者の観察眼の鋭さに感服した。その一方で「スポーツ精神」では、スポーツ全般、特にサッカーとボクシングに対してこれほど酷い評価をしなくてもよいのではないかと感じた。「おいしい一杯の紅茶」はお茶の入れ方に対するこだわり。英国人らしさを感じた。★★★+2020/02/10
molysk
67
文明の歴史は武器の歴史である。主要な武器が高価で複雑な時代は、専制の時代。安価で単純な時代は、民主的な時代。アメリカ独立やフランス革命は、仕組みが単純なマスケット銃を手にした大衆がもたらした。その後の戦闘方法の発達は国家に有利となり、戦争を遂行できる国家の数は絞られた。原爆の開発には希少な技術力を必要とする。軍事的均衡にある二国が、世界のほかの地域を支配下に置くことになる――。原爆投下から二月後に、原爆がもたらす「平和なき平和」を意味する、「冷戦」という言葉を初めて用いたのが、本著「あなたと原爆」である。2021/09/18