内容説明
轢き逃げは、じつは惨殺事件だった。被害者は森元隆一。事情聴取を始めた刑事は、森元の妻・法子に不審を持つ。夫を轢いた人物はどうなったのか、一度もきこうとしないのだ。隆一には八千万円の生命保険がかけられていた。しかし、受取人の法子には完璧なアリバイが…。刑事の財布、探偵の財布、死者の財布―。“十の財布”が語る事件の裏に、やがて底知れぬ悪意の影が。
著者等紹介
宮部みゆき[ミヤベミユキ]
1960年東京都生まれ。’87年「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞してデビュー。’93年『火車』で山本周五郎賞。’97年『蒲生邸事件』で日本SF大賞。’99年『理由』で直木賞。2001年『模倣犯』で毎日出版文化賞特別賞、’02年司馬遼太郎賞、芸術選奨文部科学大臣賞。’07年『名もなき毒』で吉川英治文学賞。’08年英語版『BRAVE STORY』でThe Batchelder Award受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 3件/全3件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
yoshida
218
久しぶりに宮部みゆきさんの作品が読みたくなり読了。保険金殺人がテーマですが、登場人物の財布が語り口というユニークな作品です。そして、宮部みゆきさんの作品に登場する悪意の権化の様な人物、自己顕示欲の塊の様な人物が登場します。これらの人物像が後の「模倣犯」等に繋がるのだと感じた。犯人以外にも、バスガイドの友人といい、宮部みゆきさんは人間の持つ悪意や嫉妬心等の感情を描くのが実に巧みである。やはり私は宮部みゆきさんの作品が好きだなと再確認した。圧倒的な筆力でぐいぐい読ませ、一気読み。満足の読書時間が持てました。2017/08/19
あきら
172
今まで読んだことのない視点で面白かった。 財布を一人称とした視点で、受ける情報が人間に比べて限定的であるからこそのミステリー感が味わえます。 そして肌身離さない存在、欲や自分だけの秘密を物理的にしまう存在とも言えるので、自分だけが知っている秘密を組み立てていく、その辺りのちょっとした優越感もありました。 よかったです。 2021/12/13
sayan
162
久々に手に取った宮部みゆき作品。財布がストーリーを語る、という設定で10編の短編がつながる。犯人は誰か?という視点で読んでると、後半登場する「犯人の財布」編に驚かされる。ここから、犯人の動機は何か?になっていく。このあたりの構成は読者を選ぶ。全体的に少し読み疲れた。淡々としていたが中年刑事とその家族を描いた「「刑事の財布」編は非常に印象的だった。なかでも「あるじは私をふくらますために…」や「私はふくらんだためしがない」といった語りがもたらすリアリティ感は虚しさとは違うのだろうが、うまく感想を表現できない。2018/07/17
ぷう蔵
136
誰目線で書くか?まさか、コレ目線で全てを書くとは…、驚きであり、新鮮であった。それでいて無理矢理感、不自然感を私は感じなかった。確かにコレはその人の経済状態や、それに起因する精神状態、御守りや御守り代りの大事な物を入れたり、何も入れ物がないとき仮に物を入れたり…。これらの要素を巧く織り交ぜてストーリーを紡いでいる。構成も読み飽きない丁度いいタイミングで章が展開し、また最近のミステリーは色々入り組んだものも多いので、私は本作の題名「長い長い殺人」と言う印象をまったく抱かず、「あっという間の連続殺人」だった。2017/07/04
かみぶくろ
118
宮部さんらしい緻密な社会派ミステリー。水に落ちた犬に石を投げ続けるメディア・社会と、承認欲求に支配されてモンスター化する個人の、共犯・共存関係がほんのりと透けて見えてくる。財布が語り手っていう特異な体裁は、動きが制限され、不完全情報下に置かれた財布だからこそのサスペンス性があるが、そこまで劇的な効果はなく。むしろお金の出し入れ=その人物の人間性そのもの、として象徴的に機能しているところに、財布たる所以が感じられた。2017/09/15