内容説明
「をとこもすなる日記といふものををんなもしてみむとてするなり」―平安時代前期から中期にかけて活躍した歌人・紀貫之によって書かれた日本最古の日記文学。土佐国司の任を終えて京に戻るまでの五十五日間の船旅を、堀江敏幸による試みに満ちた新訳で味わう。貫之の生涯に添い、自問の声を聞き、その内面を想像して書かれた緒言と結言を合わせて収録。
目次
貫之による緒言
土左日記
貫之による結言
著者等紹介
堀江敏幸[ホリエトシユキ]
1964年岐阜県生まれ。1999年『おぱらばん』で三島由紀夫賞、2001年「熊の敷石」で芥川賞、2003年「スタンス・ドット」で川端康成文学賞、2004年同作収録の『雪沼とその周辺』で谷崎潤一郎賞、木山捷平文学賞、2006年『河岸忘日抄』、2010年『正弦曲線』で読売文学賞、2012年『なずな』で伊藤整文学賞、2016年『その姿の消し方』で野間文芸賞などを受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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niisun
27
昔々暗記した“をとこもすなる日記といふものを をむなもしてみんとてするなり”で有名な日本最古の日記文学である紀貫之の『土左日記』。彼が国司として赴任していた土佐国から、任期を終えて京に帰る55日間の旅路を、帰京後に女性を書き手として、ほぼ仮名で綴った日記調の作品。私の好きな堀江さんの訳だったので読んでみました。堀江氏の解釈も入れながら訳出されており、大変興味深く読めました。作中に作者である貫之自身も登場する今風に言えばメタフィクションの形式。しかも漢文体が当たり前の時代に仮名で書いた貫之の意欲作ですね!2024/07/26
テト
14
ふと手にした紀貫之の土左日記がとてもよかった。本文はほぼひらがなのみの文章で、読みにくいところもあったが、訳者の解説が適切でこの世界を堪能できた。おとこもじとおんなもじの使い分けや、陸と海の対比、過去と未来、子供と老人、栄華と衰退、様々な二軸がゆらいでいるメタフィクションがなんともこころに引っ掛かった。緒言と結言は訳者の追記ということだったが、こちらからも物語に引き込まれた。2024/10/10
Decoy
3
信じ難いほどの素晴らしさ! 大まかに知っているつもりだった“古典”の内容が、まったく違っていて、呆然。メタな仕掛けだらけで、男/女、和文/漢文、現実/虚構、記録/創作、陸/海、生/死…といった境界が、すべて融けて混ざる。日本語表現の誕生の現場に立ち会っている興奮と、21世紀に至ってもなお驚かされる前衛性・実験性を、同時に味わえるというのは、どれほどの偉業なのか。千年以上読み継がれる真の古典の凄み。「堀江敏幸に現代語訳をお願いしよう」と考え付いた人も、偉い。2024/08/27
mori-ful
0
堀江敏幸訳『土左日記』面白かった。歌と日記という今も日本人が大好きな形式を散文に溶け込ませ、揺れ動く複数の「私」のフィクショナルな船旅(帰路のみ)を描く。言葉こそが言葉を生む。海に映る月影にこそリアリティがあるように、子を失った悲しみは、たとえ虚構=嘘であっても胸を打つ。貫之が政治的キャリアは不遇だったのが興味深い。古典でありかつ前衛でもあるような作品。2024/07/20