内容説明
強い恨みを忘れず亡霊と化した崇徳院と西行の問答が息もつかせぬ「白峯」、義兄弟の絆が試される「菊花の約」、小姓に恋するあまり尊い身を鬼に堕とした僧が切ない「青頭巾」など、日常の闇にひそむ異界を描いた日本の代表的本格怪異小説集『雨月物語』。続編と言われる『春雨物語』を併せ、名訳と詳細な注で贈る決定版。
著者等紹介
上田秋成[ウエダアキナリ]
享保19‐文化6年(1734‐1809年)。大坂生まれ。江戸時代後期の作家。浮世草子『諸道聴耳世間猿』で世に出、代表作『雨月物語』は、江戸後期の戯作者たちに大きな影響を与えた。創作のみならず『也哉鈔』で俳文法、『歌聖伝』にて万葉集研究など多岐に渡る研究にも成果をあらわした
円地文子[エンチフミコ]
1905‐86年。東京都生まれ。作家。女性の心理を深く描写した創作と、源氏物語の現代語訳など古典における活動が高く評価された。1985年に文化勲章を受章(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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こーた
164
降りしきる雨に戸は濡れて、ぼやけた視界のさきに、かれらはぬっとあらわれる。月明かりに照らされ、足元はおぼろげに、向う岸との境界も、いつの間にやらあいまいになる。この奇妙な物語たちは、読むたびにまた訳すひとによって、がらりと印象がかわる。この円地文子訳で気に入ったのは「夢応の鯉魚」。幻想的な江戸絵画のように、ふわふわと浮かぶような美しさがある。読むたびに印象がちがうのは、わたし自身がかわったからか、あるいは訳者がちがうせいなのか。読めば読むほど、物語とわたしの境界まで、次第にあいまいになっていく。2018/07/15
井月 奎(いづき けい)
36
上田秋成の物語も妙なる香りですし、円地文子の訳も実に素晴らしい。それを踏まえてなお言いたいのが、「雨月物語」と「春雨物語」を並べたことが大きなお手柄だと思うのです。私は怪談、怪異譚というのは「怪」に力を借りた人の心の発露が一つの味わいだと思っています。その「怪」を「雨月物語」はたっぷりと使って表現も工夫吟味がたんとなされています。比べて「春雨物語」は「怪」によって心、行いをろ過したかのような上質な透明さを感じます。一人の芸術家の創作方法が変わる様子を目の当たりにできることが嬉しい読書でした。2019/07/27
なお
34
上田秋成は江戸後期の読本作者・国学者。『雨月物語』は9編の怪しく不思議な話から成る。泉鏡花の『高野聖』に通ずる世界観があった。西行が保元の乱で敗れた崇徳上皇の怨念を鎮める「白峯」。義兄弟の契りを結んだ男達の誠実と悲哀を伝える「菊花の約」。女性の執念深さが蛇の姿と重なる「蛇性の婬」等。いずれも人の情や業の深さが感じられた。『春雨物語』は亡くなる1年前の74歳に成立。「血かたびら」「天津おとめ」で平安の歴史を描く。仁明天皇に仕える良岑宗貞(僧正遍昭)が、清水寺で小野小町と歌をやり取りする場面を興味深く読んだ。2023/09/16
スプーン
34
(「雨月物語」のみレビュー)あの世とこの世を行き来し、人の心と、仏法を説く江戸時代の作家の短編集。まっこと人の心は、天使にも悪魔にもなれる、白黒入り混じったものであると思ふ。円地文子名訳。2019/08/29
こうすけ
20
面白かったけど、春雨物語のほうは一部抜粋?騎士団長殺しに出てきた『二世の縁』がなかった。怪談は良いですね。2022/10/06
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