内容説明
お墓というのは、家の中でいうとお風呂場みたいだ―。父の遺骨を納める墓地を見に出かけた「私」の目に映るもの、頭をよぎることどもの間に、父や家族と過ごした時代の思い出が滑り込む、第84回芥川賞受賞作「父が消えた」。その他「星に触わる」「お湯の音」など、初期作品5篇を収録した傑作短篇集。
著者等紹介
尾辻克彦[オツジカツヒコ]
1937年、横浜市生まれ。武蔵野美術学校中退後、赤瀬川原平の名で美術活動を行う。79年、尾辻克彦の名で書いた『肌ざわり』で中央公論新人賞、81年に『父が消えた』で芥川賞、83年に野間文芸新人賞を受賞。著書多数
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
200
第84回(1980年)芥川賞。 昭和の風情満載の物語である。 汽車に乗りながら、父の人生に想いを かける…読んでいると 懐かしい気分に させてくれるのが 素直に嬉しい。 馬場くんとの軽妙な会話をとして、 思い出す父との記憶が 印象的な物語だった。2017/11/01
kaizen@名古屋de朝活読書会
146
芥川賞】三鷹から東京と逆に行くと旅行になる。なるほど。簡潔な文章。作家と編集者の関係、名古屋にいたこと、美術学校に行ったことが話にでてくる。文学以外の筆名は赤瀬川原平。愛知県立旭丘高校美術科で本人の話と一致。本人の経験に基づいた話であることが推測できる。作者の時代背景と、作品の時代背景の交差点。どちらにも興味がないと無味な駄文に思うかも知れない。赤瀬川原平の作品を知っていれば、そこを狙っていることが分かる。2014/07/21
absinthe
137
表題作。教え子と電車で三鷹から高尾まで行くだけの話。ただ、何か目に入るたびに連想から発想が飛んで、あっちへこっちへ話が捻じれていく。エッセイみたいな体裁。エピソードは無関係に見えるが、迷路のように繋がってくる。視点が真っすぐでなく、言葉遊びの語感が楽しくゆるい感じがいい。ユーモラスでついつい読んでしまう。ほんわか面白い作風。2024/01/10
おいしゃん
82
【芥川賞作品】いやはや、さすが赤瀬川さん(著者名はペンネーム)。芥川賞の表題作と他4編とも世界観が本当に面白い。最後の「お湯の音」など、親子で出前を取ろうという話になり、銭湯の出前!を注文。やってきた番頭さんが丼に湯を注げば、自宅が銭湯になり…。天才的な芸術家は、文章を書いてもやはり天才的な面白さであった。2015/02/28
ヴェネツィア
78
1980年下半期芥川賞受賞作。この時は田中康夫の『なんとなくクリスタル』が候補にノミネートされながら落選。もっとも、売れ行きと作品の認知度では、こちらが圧勝したのだが。さて、本作の『父が消えた』であるが、この作家の作品は初読だったので、タイトルからは安倍公房の書くようなシュールな世界を想像していた。実際は三鷹から中央線に乗って高尾の公営墓地に向う現実と、主人公の過去とが交錯する私小説風のものだった。選考委員だった大江健三郎の評―短篇というジャンルの「異化」―は、当時はともかく、今では首肯しにくいようだ。2013/08/07