内容説明
毎日同じことを繰り返しながら、刻一刻と変化していく、子どもとの時間と記憶。二歳のももちゃんとお父さんは日々、川べりを歩く。かけがえない瞬間を描く、新世代の「父」小説。
著者等紹介
滝口悠生[タキグチユウショウ]
1982年、東京都生まれ。2011年、「楽器」で新潮新人賞を受賞し、デビュー。15年『愛と人生』で野間文芸新人賞、16年「死んでいない者」で芥川賞、22年『水平線』で織田作之助賞、23年に同作で芸術選奨文部科学大臣賞、23年「反対方向行き」で川端康成文学賞をそれぞれ受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
そうたそ
10
★★★★☆ お父さんが二歳のももちゃんと過ごす中で日々感じていくかけがえのない瞬間を描く"父"小説。書かれているのは何ということのない日常なのだが、これが素晴らしい。そんな日々を繰り返しながらも、子どもは変化し成長し続けていく。子育ての経験がないから、実際それがどういうものなのか分からない。でも読んでいると、不思議と子育てを追体験しているような気持ちになる。そもそも明確にどうこうと言葉にしにくい子育てという不思議な体験を、著者はどうしてこんなにも巧みに言語化できるのか。自信を持って薦めたい傑作だった。2025/05/23
翡翠
3
小さかったのに、最後にはもう字もかけるようになって…と感慨深く読み終えました。 子供の成長を注意深く見守っていくということは、こんなにも素敵なことなんですね。 会話に鉤括弧が付いていないので、「ももちゃん」が「とももちゃん」に見えてしまえことが何度もありました。2025/05/24
mori-ful
2
『季節の記憶』に似ている。抽象的な思弁もなくはないが、より具体的でやさしい。第一作「緑色」で唸り第二作「恐竜」にはある箇所でたまげた。第三作「ロッテの高沢」は保育士の仕事を描いたもので中心にあるように感じた。 「目に見えるもの、聞こえる音、思い出すことを、自分ひとりでなく、別の誰かに話しかけるみたいに思うようになり…」 「小さな子どもと一緒にいると、いつもどこか遠くからその日その日を眺めているひとがいて、そのひとに何事かを語りかけられながらその日々を過ごしているような感じがももちゃんのお父さんにはあった」2025/05/19
きたうら
2
ももちゃんのお父さんは、と語られる主体が育児する中で得る実感を軸としながら、三歳の娘であるももちゃん自身や、ももちゃんの友達のふいちゃんやあみちゃん、その父母、保育士の湯美さんや近所の人々など、様々な主体による語りが入り交じることで、子を育てる/子が育つ/子と育つという営みが重層的に立ちあがる。特に中篇「連絡」で「いつもどこか遠くからその日その日を眺めているひとがいて、そのひとに何事かを語りかけられながらその日々を過ごしているような感じ」と語られる子育ての実感が印象に残った。2025/05/04
➖
1
ヨシタケシンスケさんの帯書き通りの本だった。複製のような日々が含むほんのささやかな違いやそこから生まれる思考を淡々と緻密に書き留めた風になっていて、共感することが無くとも『子どもを育てる』という行為の尊さに胸が詰まる。2025/05/25