出版社内容情報
わたしたちには、時に非常出口が必要だ――「やさしい雨の降る森」「愛の不在」等、25の小さな祝福の瞬間を描く、待望の掌篇集。
内容説明
不思議な音に導かれ、森に入るおじいさんとおばあさん、ママのバイクから落っこちた少年の、1年間のサバイバル、人がいっさい消えた世界で進化する猫たち―。『gift』以来となる、13年ぶり、待望の掌篇集。
著者等紹介
古川日出男[フルカワヒデオ]
1966年、福島県生まれ。98年『13』で作家デビュー。2002年『アラビアの夜の種族』で日本推理作家協会賞および日本SF大賞、06年『LOVE』で三島由紀夫賞、『女たち三百人の裏切りの書』で15年に野間文芸新人賞、および16年に読売文学賞(小説賞)を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
masa
78
バンド音楽が生まれることは控えめにいっても奇跡だ。魂とか祈りとか衝動とか、そう呼ぶしかないような、ナニかが宿る。なのに、バンド音楽が死ぬことは酷く容易い。メンバーの心が通わない。どうしようもなく凡庸な、それだけだ。世界のあちこちで非日常的なことが日常的に起きている。ループするライヴ盤にはたとえ鳴っていても、そのときを過ぎれば二度とは聴こえない音が封じられていて、終わりの手拍子は始まりの歓声と溶け合い、非常出口に一方通行で吸い込まれてゆく。他人が下す評価をミュートして、僕は付属するふたつの耳を信じて傾ける。2019/11/09
さっとる◎
43
日常はいつだって非情で異常なので私は恒常的に非常出口を必要としている。そんな前口上。それはもちろん頭上とか市場とかG線上とかにあってもいいのだけど、できれば路上とか俎上とか日常的で、籠城にも耐えうるような身近なものがいい。聞こえなくなった声が悲しくても毎日は回るのだから。どこへ行ってもとりあえず帰る場所は必要なのだから。そんな当たり前すぎる毎日。生き残るのに必要なのは特別な一瞬じゃなくて、日常を非日常に変えてくれる、ささいな特別。それはお気に入りの音楽とか、繰り返し開いてしまう本とか、たぶんそんな近くの。2019/11/30
さっとる◎
41
非日常っていいよなあと思う。日常に不満があるとかないとかそういうところを超えて、いいよなあって思う。でもそうそう日常が「非」になるわけもなく。その「非」にならない日常が「非」になる瞬間。もしかしたらそれは私が思うよりたくさん溢れているのかもしれない。予言としてのお天気番組。日々脱落レースが密かに開催される満員電車。宙から宙に移動するアップルヘッド。音に糸。それを見逃さないでいられるかどうかは、私次第。人には、ときに非常出口が必要だ、…。ひっそりそこにある奇跡に私はどれくらい気付けているだろう?2017/08/03
メセニ
13
作者はあとがきでこう書いている。「この本は、誰かの人生に入り口があるとか、〜昏迷する時代からの出口はどこだとか、そういうことには一切関わっていない」。ただし、「人には、時に非常出口が必要だ、と、そのことだけを語ろうとしている」と。そうなのかもしれない、と思う。”非常出口”というフレーズから発想するものはそれぞれだろうけど、小説が好きな僕らにとって、例えばここに登録した本の一つ一つは一度は通った扉の痕跡かもしれない。この作品に理路整然としたものはきっとない。でも何かこう脱出の糸口となる着想が疼きとしてある。2017/07/28
toshi
11
ショートショート集。 アイデア及びストーリは多彩でそれぞれ面白いけれど、どれもオチがイマイチ。惜しい・・・2017/09/23