出版社内容情報
ハンセン病療養所での治療体験から、人間の真実の姿を見つめた精神科医の魂の記録。大きな活字の新書版。生誕100年記念企画。
【著者紹介】
1914年生まれ。精神科医、文筆家。ハンセン病の治療でも知られる。美智子妃の相談役ともいえる存在でもあった。本書、『生きがいについて』『こころの旅』はベストセラー。
内容説明
ひとりの精神科医として、ハンセン病、心やめる人々に接してきた著者が、生の本質を問い直す、永遠の書。
目次
第1章 いのちとこころ(いのちを支えるもの―外なる自然について;脳とこころ(1)―内なる自然について
脳とこころ(2)―新しい脳のもたらしたもの
人格について
知性について
こころのいのち)
第2章 人間の生きかた(自発性と主体性について;反抗心について;欲望について―何がたいせつか;生存競争について;使命感について)
第3章 人間をとりまくもの(科学と人間;病める心をみつめて―罪の問題;死について;自我というもの;人間を越えるもの;愛の自覚)
著者等紹介
神谷美恵子[カミヤミエコ]
1914年、岡山市生まれ。津田英学塾卒業後、コロンビア大学入学。44年、東京女子医専卒業後、東京大学医学部精神科、大阪大学医学部神経科を経て、57‐72年、長島愛生園勤務、ハンセン病患者の治療に尽くす。その後、神戸女学院大学、津田塾大学教授。79年逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ハイランド
65
ながくハンセン病で収容されている方々の治療に携わっていた筆者のエッセイ。いろいろな人達のケースを語りながら、人間の心の働きについて考察していく。牧歌的とも言える古き良き時代の、知識人の薫りがする文章。育ちの良さが感じられる。今ならネットで数度となく炎上するのだろうな。最後の方に絶望の淵から宗教に救われた方の話が紹介されているが、絶望から魂が救われるのは素晴らしいこと。それが抑圧や強制につながらない限り。実家近くの療養所の教会を思い出す。いろいろと考えさせられる本だった。もっと宗教哲学を学ぶ必要を感じた。2016/06/17
fu
23
傍らで病や生死を見守る立場にあると、だいたいこのような諦観の境地に至るのだろうか。身体の病から若くして他界した者、脳と心を病んだ者を身内に抱えてきたためか、私の心奥にある思いと少しもかけ離れておらず、頷けることばかりだった。生きがいのアンチテーゼ論のようなもの、と著者は言う。自己とか自我とかいってもそもそも自分からこの世に生まれてきた訳ではなく、存在させられているのにすぎない。究極的にはこの宇宙に存在させたものに対し、草木や星のように、生かされている愛と許しを謙虚に受け止め存在するしかないのだろう。2016/06/24
黒澤ペンギン
17
確実に死ぬからこそ生は尊い、などとよく聞くが、なぜそうなのか自分で考えたことはなかった。死を意識してもしなくても生きているなら一緒だとも薄く思っていた。 今感じる生の価値は一生の価値を時間で割ったものとすると、死を意識しないと分母が果てしなく大きくなって0に近づいてしまう。そう考えると死を意識することがプラスに思える。さらに「ありがたい」という意識も自然とわいてきた。ここの死についてと使命感について、知性についてが興味深かった。三章の四以降はなかなか入ってこなかった。「生きがいについて」の後また読もう。2022/11/06
テツ
16
『自省録』の翻訳でお馴染みの著者による人間とその存在理由についてのお話。精神科医であるということでフランクルの『夜と霧』とも比べられるけれど、やはりベースとなるのは、人間はどうやってその人生と対峙するのかということ。自らの境遇や悩み苦しみに浸り、その内側で自慰行為に耽るのではなく、ただただ自分自身に許された行いを、自分自身にできる最大限の善行を積み重ねていくことを是とし、それが人間が人間たる所以であるのかもしれないという考えに救われる。何があろうとも、どんな場面でも、自分の在り方は失わない。死ぬ瞬間まで。2023/01/30
いやしの本棚
12
客観的にみたら自分は可哀相なのかもしれない…そんな思いにとらわれながら本屋の棚を眺めていて、こんな時のための処方箋を発見。生を肯定する言葉が、するするこころに落ちてくるのは、『うつわの歌』の作者だと知っているからかもしれない。私はまだ神谷美恵子の言うように「生を感謝とよろこびのうちに謙虚にうけとめる」ことができずにいるけど、このひとの言葉はどこまでも確かで本当だから、安心できる。何だろう、シモーヌ・ヴェイユと通じる気がするのだけど、根っこは同じなのに、まるで違う花を咲かせた二人…という感じがする。2018/08/26