出版社内容情報
建築家・大江宏(1913-1989)の作品と言説に、日本の近代建築受容の一端をみる。
丹下健三と大学の同級生であった大江は、近代建築が忌避した伝統様式や装飾の再評価を伴った「混在併存」の原理を標榜し、独自の設計活動を展開した人物として知られる。さらに、1960年代以降の多彩な作風は評価を難しいものとしたが、大江が作品と言説に一貫して込めていたものは、短絡的な捨象に依拠した一元論に対する批判精神であり、この姿勢は終生変わらなかった。
メディアを賑わす時流から一歩引いた眼差しを持ち、日本建築の正統をその身に引き受けようと試みながら、なお可能な限りの自由さをもって建築のあるべき姿を追求しつづけた姿を読み解く。
「近代建築の清冽な精神に共感しながら、早くからその功罪を冷静に見極め、一定の距離を置き、〈混在併存〉〈渾然一体〉、内面から湧き出てくるロマン、見る人にとっては不思議なノイズを満載する合理性へと至ってゆく大江宏の建築世界の遍歴を、交友関係、写真、図面スケッチなど新しい資料を発掘しながら、克明に辿った気鋭の研究者によるモノグラフ。
日本人の身体や心に根ざした建築のあり方を希求する時、合理に異質な体系─―〈あそび〉を持ち込み、〈場の気配〉を生み出そうとした、日本モダニズムの問題を照らし出している。
生産至上、能率至上、窒息せんばかりになった現代の状況を解き放ち、人間的なバランスのとれた生活空間を回復せんと試みる一建築家の足跡。」(富永 讓)
目次
第1章 父の殻の恩恵と桎梏
第2章 戦時下の修練
第3章 近代建築に対する執念と疑念
第4章 目にした世界、省みた日本
第5章 “混在併存”の展開と限界
第6章 “整合性”から“恣意的必然性”へ
著者等紹介
石井翔大[イシイショウタ]
1986年東京都生まれ。2009年法政大学工学部建築学科卒業。2018年同大学院デザイン工学研究科建築学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。一級建築士。法政大学デザイン工学部建築学科教務助手、明治大学理工学部建築学科助教を経て、2023年4月より日本文理大学工学部建築学科助教。専門は近代建築史。2021年日本建築学会奨励賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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