目次
情けある昔の人は
春きぬと思ひなしぬる
いとまなく柳の末に
春や何ぞきこゆる音は
枝もなく咲き重なれる
かすみくもり入りぬとみつる
花の上の暮れゆく空に
風はやみ雲のひとむら
すずみつるあまたの宿も
照りくらし土さへ裂くる〔ほか〕
著者等紹介
阿尾あすか[アオアスカ]
1978年奈良県生。奈良女子大学卒業、京都大学大学院博士課程修了。現在、国文学研究資料館特定研究員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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新地学@児童書病発動中
88
大らかさと繊細さの両方を兼ね備えた伏見院の歌は比類がない。「入りがたの峰の夕日にみがかれてこほれる山の雪ぞひかれる」のような歌を読むと歌自体の美しさに圧倒されて、心がしんと静まり返る。夕日に輝く山の峰という雄大な景色と、その峰を「みがかれて」と表現する繊細さ。夕日の茜色と雪の白の対比。言葉はここまで自然の中に潜む美しさを描き出すことができるのだ。「入相の鐘の音さへうづもれて雪しづかなる夕暮れの庭」も好きな歌で、この和歌の中にある静けさに身を浸していると、心安らぐ静寂に身も心も包み込まれる気がした。2017/12/04
しゅてふぁん
54
再読。京極派の叙景歌はまるで絵描き歌のよう。歌に詠み込まれた情景が目に浮かべることができて、しかも美しい。孤独や寂しさを感じることが多いのは、武家が台頭し皇統が二分され、平安時代から続いてきた王朝文化の雅が翳りを見せた時代だったからかなぁ。伏見院の叙景歌、その感性が素敵で大好き。『伊勢物語絵巻』の詞書筆者には伏見院が有力視されているとか。さすが古典愛好者!2020/12/30
しゅてふぁん
47
雨の日にふと読みたくなって(伏見院は春雨を詠んだ佳作が多いので)再読。「いとまなく柳の末につたふ雨のしづくもながき春の日ぐらし/伏見院御集」2019/04/25
しゅてふぁん
47
この本の感想は次の一言に尽きる。伏見院に惚れました。冒頭の歌『情けある昔の人はあはれにて見ぬわが友と思はるるかな/玉葉和歌集/2615』で‘うわぁ、好きだー’と一瞬にして心を掴まれた。あぁ‘見ぬわが友’となって欲しい。叙景歌では院の心象風景を垣間見ることができたし、枕草子や源氏物語を思わせる歌や白氏文集から影響を受けた歌もたくさんあり、古典愛好癖を見ることができるのも楽しい。どんな方だったんだろう。院は雨を好んで歌の題材にしているとのこと、個人的に雨が好きなので、ぜひとも他の歌も読んでみたい。2019/01/29
双海(ふたみ)
11
「きっと、歌を詠むことが楽しく、またそれを書くことが楽しく、歌の一つ一つがいとしくて、つまらぬ歌は内緒に葬ろうなどというけちな了見は爪の垢ほどもおありにならなかったのでしょう。」(岩佐美代子)後深草院皇子で、後の北朝につながる持明院統(じみょういんとう)に属した第九十二代の天皇。妃の永福門院(えいふくもんいん)と並ぶ京極派和歌の体現者。2024/03/10