感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
どんぐり
79
〈ケアをひらくシリーズ〉の一冊。精神科の患者であると同時に、看護師でもあった女性。複雑性PTSDの診断を受け、「こころの痛みがあまりにもひどい時、腕を切って体が痛みを感じてくれると、そちらに意識が向いてこころの痛みを一時でも忘れさせてくれる」とリストカットをくり返す。複雑性PTSDに至った経緯はわからないが、両親が不仲で別居しており、自分が病人となることで、家族の均衡を保つ「アイデンティティファイド・ペイシェント(IP)」だと自己分析する。その体験から、家族内の絡まった糸をときほぐそうとした記録である。→2025/04/11
shikashika555
37
読み進めるうちに手足の先が冷えてきて辛くなる読書体験。 よくこれだけのものを書けたなという驚きと、出てくるものを書かずにはいられない言葉に置き換え活字にしなくてはやっていけない感覚があったのだろうという納得めいた感情と。 彼女の書くものを(すでに亡くなっておられるが)この先も読みたいと思った。 看護師としての視点を持つ当事者研究。ずば抜けた言語化の才能と文才、病と自分を俯瞰する能力と分析力を持った体験記。 読み手を切りつけてくるような勢い。その全てに恐れながらも魅力を感じてしまう。2025/02/14
akiᵕ̈
29
齋藤塔子という人の26年生き抜いた中での、まさに命を懸けて綴った心の声がギッシリ詰まった一冊。父と母それぞれに思う所があって不眠や精神を蝕み苛まれ、自傷を繰り返し続けた人生。そんな中にありながら、東大に現役で入り看護師として働いてもいたのが何よりの驚きだったけど、"精神科の患者一人一人も物語を持った「人」である”と、自身の体験を実名で言葉にしたかったという強い意志をも持つ、何ともアンビバレントな状況は紙一重なのだろうか。確かに読んでいて、これは物語なのかと思ってしまう程の文章力を感じたので残念です。2025/01/25
W.
10
苦しい。著者だけでなく、父にも母にも兄にもパートナーの心の中も想像する。著者の命がけの作品、しっかり心にとどめようと思った。 目の前にいる、理解しがたい行動をする人には、どんな背景、その人の物語があるのか。 それを考えられるほど自分の心に余裕があるか分からないがいつも心がけたい。2025/01/30
きゅー
9
著者のトラウマをたどる旅。本書の刊行前に著者は死去した。この本の執筆が彼女の死期を早めたであろうことは想像に易く、出版社も刊行を悩んだと思う。解説に書かれているように「彼女はこれを書いたから傷口が広がり、死を早めることになった」のだろう。だがそれをもって、この本の刊行に関係する者を糾弾することはあってはならない。それは自身の苦しみに真摯に向き合い、絶望した過去を未来へとつなげようとした著者への冒涜だ。本書の冒頭に著者の夫の言葉が掲げられている。末尾の読者に宛てた「生きてください」の言葉が忘れられない。2025/02/18