内容説明
「紅旗征戎吾が事に非ず」―栄耀栄華を極めた平氏は西海の藻屑と消え、鎌倉武家権力に席捲される朝廷・公家社会。巷は餓死者の屍臭に包まれ、野盗は貴顕の邸をも襲い、大地震と大火は末法の到来を教えていた。だがひたすらに現世の争乱に背を向け、和歌の架ける世界を追い続けた定家。後鳥羽院との確執、式子内親王への慕情を軸に。中世の歌世界に巨星として輝く、その八十年の生涯を描きつくす歴史大作。
感想・レビュー
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churu
2
全編定家のモノローグなので登場人物の苗字すら出て来ない。この時代への知識がないと読み通せないなと、時折スマホでWikipediaをチラ見しつつ、まぁいいやと思って構わず読み耽ると不思議にページが進んでゆく。気鬱で気難しく神経質で自己中で思い込み激しく他人に厳しく歌に厳しく突如純粋な情熱と愛憎を迸らせる定家のモラトリアムっぷり。西行と違って人物的に惹かれはしないが、時代や風物を背景にして、気付くと彼の心象風景に吸い寄せれられている。突き詰めれば歌と式子内親王と後鳥羽院だけが彼の心の中の全てだったのだろうか。2024/10/29