内容説明
かなわぬ恋こそ、美しい―雨の気配を滲ませた母子に宿命的に惹かれ、人生設計を投げ捨てたエリート医師(「弱法師」)。編集者の愛を得るために小説を捧げ続けた若き作家(「卒塔婆小町」)。父と母、伯母の不可思議な関係に胸をふるわせる少女(「浮舟」)。能のモチーフをちりばめ、身を滅ぼすほどの激しい恋情が燃えたつ珠玉の三篇。
著者等紹介
中山可穂[ナカヤマカホ]
昭和35年(1960)生まれ。早稲田大学教育学部英語英文科卒。1993年『猫背の王子』でデビュー。95年『天使の骨』で第6回朝日新人文学賞、2001年『白い薔薇の淵まで』で第14回山本周五郎賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
nico🐬波待ち中
91
能の演目『弱法師』『卒塔婆小町』『浮舟』を現代風にアレンジした短編集。独特の雰囲気に圧倒され、厳かで静かに進む文章に引き込まれる。特に『卒塔婆小町』は破滅の道へ追い込まれていく二人の様子に目が離せなくなる。他人からは決して理解してもらうことのない愛だったけれど、二人の愛は叶えられたのだと思う。そして源氏物語をモチーフにした『浮舟』。あの話をこの設定にするとは驚いた。「男が本気で女に惚れたら、奪うもんだ」「女が本気で女に惚れたら、引くもんだ」姉弟のセリフは実に奥が深い。死をも辞さない究極の愛に圧倒された。2018/04/21
優希
89
どうしてこんなに鋭く激しい恋が描けるんだろう。能をモチーフにした美しい世界。同性愛を描きながらもその裏にある人生が見えてとても苦しくなります。初期のひりひりする肉体をも伴う恋愛情景は薄くなっていますが、その分精神で繋がろうとする力が強いように感じました。濃密で魂を抉られるような愛の形に体も反応してしまいます。性描写もないのに官能の香りのする重厚な恋愛小説。3編それぞれが重く、愛しい。この本が読めて良かったです。2016/01/17
あじ
55
中山可穂の恋愛小説は、凄絶の極みだ。独特の色香で私を度々誘い出し、絡め取ってきつく縛りあげてきた。息も絶え絶えとなる描写は、作者の実感以外に何があるだろう。中篇「卒塔婆小町」は百本の作品と引き換えに、己を差し出す約束を取り交わした作家と、その担当の悲歌を奏でている。表題作他二篇を収録。★3.4/5 2018/02/07
紅香
49
「百本書いたら、僕のものに」…墓場で知り合ったホームレスの老婆が語った懺悔にも似た告白『卒塔婆小町』が好き。幕が降りても鳴り止まない鼓動。狂おしいまでの切ないラストにそっと涙に濡れた花束を。。私達は生きるために恋をするのか、死ぬために恋をするのか。神に問う。天使と悪魔の配分を。。圧倒され過ぎて語る言葉がこれ以上見当たらない。他2編も同等に全身全霊で読んだ。中山さんの渾身の熱意、情熱、物語に捧げる愛にのぼせた。今年間違いなく、これからも一生忘れられない作品。2014/12/29
やっち@カープ女子
35
自分がレズビアンであることをカミングアウトされている中山可穂さん。 報われない愛、無償の愛、切ないどうしようもない苦しい気持ちが痛いほど伝わってきます。性描写無しの恋愛小説で秀逸だと思います。はぁ〜〜〜。切なかった……2013/08/13