内容説明
清の八十翁・松齢の庭に突如咲いた一茎の黒い花。不吉の前兆を断たんとしたその時に現われたのは(黒色の牡丹)。人間稼業から脱し、仙人として生きる修行を続ける小角がついに到達した夢幻の世界とは(睡蓮)。作家「司馬遼太郎」となる前の新聞記者時代に書かれた、妖しくて物悲しい、花にまつわる十篇の幻想小説。
著者等紹介
司馬遼太郎[シバリョウタロウ]
大正12年、大阪市に生れる。大阪外国語学校蒙古語科卒業。昭和35年、「梟の城」で第42回直木賞受賞。41年、「竜馬がゆく」「国盗り物語」で菊池寛賞受賞。47年、「世に棲む日日」を中心にした作家活動で吉川英治文学賞受賞。51年、日本芸術院恩賜賞受賞。56年、日本芸術院会員。57年、「ひとびとの蛩音」で読売文学賞受賞。58年、「歴史小説の革新」についての功績で朝日賞受賞。59年、「街道をゆく“南蛮のみち1”」で日本文学大賞受賞。62年、「ロシアについて」で読売文学賞受賞。63年、「韃靼疾風録」で大佛次郎賞受賞。平成3年、文化功労者。平成5年、文化勲章受章。平成8年没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ねこ
161
司馬遼太郎さんは「街道をゆく」の3巻で挫折して以来です。「燃えよ剣」や「梟の城」など大好きで読んでいたのですが…この「花妖譚」は本が薄いっ!なのに短編が10編も入ってる!しかも文字が大きい。簡潔な文章に濃厚な内容です。1950年代に書かれたにも関わらずビックリです。表紙にもなっている10ページにも満たない「黒色の牡丹」の話が1番好き。300年以上前の中国の清の時代のお話。神仙怪異の話を好んだ好好爺で「聊斎志異」を書いた蒲松齢の最後の時が記されています。巻末にある司馬遼太郎記念館は去年行って感銘を受けました2022/08/24
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
146
花がむせ返る夜だった。月に溶ける香りがあまく、そこだけがしろく華やいでいた。女があやしく笑って手招いて、理性はいってはならないと告げている。しかしそれがなんだろう。理性など何の役にも立ちはしない。たとえ首をもがれて数多咲きみだれる黒椿のひとつとしてcollectされたとしても、それがわたしのよろこびと震えながら叫ぼう。わたしの赤い新鮮な血潮が女を飾るならそれでもよいと。恍惚としたい夜中に貴女とワルツを踊りたい脚を舐めたいいいやもぎたい。その蜂蜜のような片脚をください。ああ、夏がもうそこまで来ている。2020/06/26
takaichiro
123
今年は桜🌸が早く咲くと言う^_^沢山の花が咲く季節💐は賑やかで華やかな気持ちになるものだ(^^)司馬遼の花は🌼少し様子が違う。ポツリと寂しく咲いているそれ。何気なく見過ごしてしまうが、振り返ると個性的で妖しい輝きを放つ。ある花はその姿で、ある花は濃厚な匂いを纏い、ある花は鮮やかな色を発して男の気持ちを幻惑し、華の向こう側、深遠な闇に引き摺り込む。闇に入り込んだ事を認識しないままこの世を離れる輩も・・・美しい花々とその毒気のコントラストが何とも言えない。福田定一が司馬遼として花開く直前の短編集^_^2020/02/21
yoshida
106
花にまつわる幻妖短編集。司馬遼太郎さんが新聞記者時代に本名の福田定一名義で発表した作品。様々な花と世界の歴史での故事。やはり歴史も根底にあるのが、司馬遼太郎さんらしいと思う。「チューリップの城主」での別所長治は新鮮な驚きがある。「烏江の月」での項羽と虞美人の最後の様子に、「項羽と劉邦」を読みたくなる。「蒙古桜」の儚さは深い余韻を残す。実に半世紀以上も前に執筆された作品だが、実に楽しめた。司馬遼太郎さんの作品でも珍しい部類だろう。歴史小説は敷居が高い、もしくは難解そうと思っている方も読みやすい作品だと思う。2021/03/28
藤月はな(灯れ松明の火)
98
新聞記者時代の司馬遼太郎が本名である「福田定一」という名で華道専門雑誌に上梓した花に纏わる歴史幻想譚。司馬遼太郎は司馬遼太郎だった。史料によって裏打ちされた物語は端整且つ流麗。「匂い沼」と「蒙古桜」が好きですが、「鳥江の月」であの人を此の世と黄泉の国への橋渡しにも印象付けられる渡し舟にしていたのにはやられました。2015/10/13