出版社内容情報
カウラの捕虜収容所で起きた大戦史上最大の暴動で、先頭に立ち偽名で死んだ零戦搭乗員の謎に迫る。日本ノンフィクション賞受賞作!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
イプシロン
23
戦争や大惨事を引き起こす原因は“空気”にある。偏屈な論争を繰り返すより余程重要なテーマを取り扱った名著。歴史観も大切なことは承知の事実だろうが、その歴史観を見る目、心が曇っていては意味がない。その目と心をあるていど無意識に育てているのは教育であり、映像化されず言語化されない無意識層に積み上げられる“空気”――日常の積み重ねであると筆者はいう。一兵士の存在を証明するごとく説き明かしていくさまはミステリー風でもある。三度目の読了になるが、立憲主義の根幹を壊しているような今こそ、是非にでも読んで欲しい一冊だ。2015/09/30
Willie the Wildcat
16
空気。阿吽の呼吸。但し、1つ読み違えれば致命的。豪州一田舎町の捕虜集団暴行事件。背景の1つ1つのピースを組み立てていく本著の過程が興味深い。根底は、責任の所在と取り方。待ったなしの国際化の波真っ只中の現代にも引き継がれる課題。次に、”心”の戦後処理。当時の価値観・思想教育が齎す悲劇。ANZAC Dayの元豪州兵士の本音の吐露も。”心”の傷である。戦争から学ぶものが、現代教育から何かが欠けている印象を残す・・・。2013/09/08
ボンタンパンチ
2
1944年、オーストラリアのカウラ捕虜収容所で発生した日本人捕虜の暴動と、その中心人物とされた「南忠男」なる人物の背景を探るノンフィクション。オーストラリアから日本まで、新たな事実が発掘されるたびに二転三転する展開に魅了され、ページを繰る手が止まらなかった。謎を一つずつ崩していき、残されたのは途方もない虚しさと僅かな達成感。それでもラストは感動的。2024/05/15
paxomnibus
1
映画『カウラは忘れない』を見た感想をツイッターに書いた際に教えて頂いた本。映画の中でご遺族共々紹介されてる方がいてちょっと不思議だったのだが、その人こそが本書の中心人物だった。本書の結末はほぼ映画で見たままなのだが、そこに辿り着くまでの著者の起伏が面白い。南忠夫という人物の調査に始まり、彼が乗っていた飛行機を探しあて、そこから身元も割り出し、それまでに得た情報を元に彼こそが事件の中心人物であったという物語を紡ぎ出そうとする。だが様々な証言を聞く内に実情とは違う事に気づき悶々とし、最後は真実に近づくのだ。2021/10/24
きいろいとり部長
1
カウラに来週桜を見に行くので思い出した本。これを読んだ後にダーウィンの戦争博物館に行って、そこで展示してあった零戦パイロットのヘルメットが実はこの本に登場する南忠男氏の物だと知って鳥肌でした。その後、カウラに送られてあの脱走事件を起こしたのだと。本書の最後の部分、涙でした。2020/10/01