内容説明
ペリー来航五年前、鎖国中の日本に憧れたアメリカ人青年ラナルド・マクドナルドはボートで単身利尻島に上陸する。長崎の座敷牢に収容された彼から本物の英語を学んだ長崎通詞・森山栄之助は、開国を迫る諸外国との交渉のほぼ全てに関わっていく。彼らの交流を通し、開国に至る日本を描きだす長編歴史小説。
著者等紹介
吉村昭[ヨシムラアキラ]
1927年、東京生まれ。学習院大学中退。66年「星への旅」で太宰治賞を受賞。同年「戦艦武蔵」で脚光を浴び、以降「零式戦闘機」「陸奥爆沈」「総員起シ」等を次々に発表。73年これら一連のドキュメンタリー作品の業績により第21回菊池寛賞を受賞する。他に「ふぉん・しいほるとの娘」で吉川英治文学賞(79年)、「破獄」により読売文学賞、芸術選奨文部大臣賞(84年)、「冷い夏、熱い夏」で毎日芸術賞(85年)、さらに87年日本芸術院賞、94年には「天狗争乱」で大佛次郎賞をそれぞれ受賞。97年より芸術院会員
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
298
幕末から幕府の崩壊、そして維新の力学に関心を寄せ続ける吉村昭。本編でも長崎のオランダ通詞森山栄之助を主人公に、このまさに激動の時代を描く。文体はいつも以上に客観体を心掛けているかのようだ。それゆえに、時としてフィクションとしての躍動感を犠牲にすることも厭わないほどに。国禁を破ってまで日本にやって来たマクドナルドとの出会いが森山の一生を決定した。吉村のこの小説では、森山はもはや単なる通詞などではなく、立派に外交官である。しかも、その手腕は幕末にあっては最高の力量だったのだろう。語りは地味ながら、実に感動的⇒2025/02/28
おしゃべりメガネ
127
思ってた以上に超大作でした。我ながらよく最後まで読了できたなと。鎖国真っ只中の日本は利尻島に単身で上陸したアメリカ人青年「マクドナルド」。そんな彼が長崎に収容され、出会った通詞「森山栄之助」との関わりを描きます。しかし、二人の心温まる描写自体は残念ながら、ごく一部であり、大半がペリー来航に纏わる歴史描写でした。しかし、このペリー来航の一部始終がリアルで、きっとこういう作品は吉村さんならではなんだろうなと。日本の長きに渡る鎖国が崩壊するまでを、外交に関わる心理描写を前面に綴るスタイルはとにかく圧巻でした。2023/02/26
いつでも母さん
111
疲れた・・文庫で476頁。その内容は漢字が多いしカタカナも多くて読むのに時間を要した。しかし吉村作家がいなければ陽が中らなかったであろう小説だと思った。開国前の日本の慌てぶりがよくわかる。前半マクドナルドの苦悩と生来の真面目さが好ましい。そして、通詞・森山栄之助の努力・人柄が読了後は苦しかった。この人がいての幕末・開国だったのだなぁ。右往左往するお偉方と偉人の間でほんの数年間が彼を疲弊させたのは間違いない。歴史の陰に、こうした人がいたことを忘れてはいけない。吉村作家の執念を感じた作品だった。2016/03/26
タツ フカガワ
84
江戸末期の1848年、北海道利尻島に漂着したマクドナルドという若者は長崎へ送致され、やがて長崎の通詞たちの英語教師となる。なかで語学の才能に秀でた森山栄之助は未知の言語を急速に修得していく。5年後、艦隊を率いてやってきたペリーと幕府の開国交渉をはじめ、英・露・仏・蘭すべての外交の場に栄之助は立ち会う。マクドナルドと栄之助の友情を通して描く開国までの現場が生々しい。なにしろ詳細を極めた描写がすごく、これぞ記録文学という一冊。それにしても歴史に埋もれたマクドナルドをよくぞ掘り起こしたものだと、そこにも感動。2024/07/29
読特
69
有色の肌に生まれ、超えられない米社会の壁。自らのルーツを日本に見る。捕鯨船に乗り込み、ボートで単身島へ渡る。鎖国下の日本。どういう運命が待つかわからない。差別はそこまでの覚悟をさせる。座敷牢で暮らすが、丁重に扱われる。日本語を覚える一方、英語を教える。結局送り返されることになるが、通詞たちが生の英語に触れたことは、その後の日米交渉に計り知れない功績をもたらす。…途中、主人公が入れ替わり、最後は史実の叙述になる。焦点定まらず、小説としては読みずらいところもあるかもしれない。それでも、読後は充実感を味わえる。2024/05/04