出版社内容情報
昭和29年、大学の若竹寮に入寮した沢登明子ら新入生仲良し五人組を、戦後復興期の時代の熱気とともに描く青春小説
……入学して六ヵ月がたち、いよいよ白衣を着て臨床実習に出る前にキャッピング(載帽式)が行なわれた。
一年生はロッカー室で私服を脱ぎ、真新しい白衣に手を通した。白衣についている糊の粉末が飛び散り、曇りガラス越しに差し込む朝日に粒子がキラキラ光る。初めて手を通す白衣は糊が効きすぎていて、ガバガバして体に馴染まない。
「案山子(かかし)みたい」
明子は鏡に映る姿を見てつぶやいた。
……若竹寮を出ると、黄色く色づいた銀杏葉が風に吹かれて飛んでくる。(本文より)