出版社内容情報
北海道大学大学院で有機素子コンピュータを研究する南雲と、突然死した友人のAIが、恋愛にまつわる事件に巻き込まれる連作集。SFマガジン不定期掲載の4篇に書き下ろし1篇を加える。
早瀬 耕[ハヤセ コウ]
著・文・その他
内容説明
北海道大学工学部2年の佐伯衣理奈は、元恋人が友人の川原圭の背中を、いつも追いかけてきた。そんな圭が2カ月前、札幌駅で列車に轢かれて亡くなった。彼は同級生からの中傷に悲観して自死を選択したのか、それともホームから転落した理性を救うためだったのか。衣理奈は、有機素子コンピュータで会話プログラムを開発する南雲助教のもとを訪れ、亡くなる直前の圭との会話を再現するのだが。恋愛と世界についての連作集。
著者等紹介
早瀬耕[ハヤセコウ]
1967年東京生まれ。1992年、『グリフォンズ・ガーデン』で作家デビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
478
大上段に構えて語ることのないSF。極端な場合には、これがSFであるいうことに気が付かないかも知れないSF。北大の助教、南雲研究室を主要な舞台に語られる、一見ささやかな小説世界。しかし、実はそこに存在する問いの意味は深く、時として哲学的な命題である。「記憶」と「記録」、そして人間の思考回路のあり方とコンピューターのそれ。AIの思考は、設定やオーダーに徹底して忠実である…はず。それでは、人間たる自分の記憶は確かなのか?プラネタリウムの内側と外側が交錯することはないのか?ないがゆえに「私」は孤独を免れないのか?2020/08/10
そる
231
作者さん頭良くてハイセンスで一般人としては分かりにくい⋯やや迂遠な感じはあるけど、行動の元になった感情がわかると意味がわかって、じわっとあたたかい気持ちになれる。コンピュータの中で起こってることは仮想なのか現実にも影響するのか、そしたら現実の社会は仮想じゃないって、言い切れる?「「本当に、彼女が好きなら、また好きになればいいだけだよ」(略)「(略)だったら、彼女を探し出せる。それが、その彼女じゃなかったら、その程度の恋愛だったっていうことだし、彼女のことは忘れているんだから、それでも幸せなんじゃない?」」2023/09/22
のいじぃ
113
読了。前作の世界観を引き継いだ短編連作短編集。SFだけれど、設定されていない指先や鏡の残像などは視点を変えれば軽くホラー。今回はそれ以降の趣が今までと少し異なり、完全に向こう側からのアプローチが入ってきているのだな、と。終盤に少しモヤモヤしたのは、その友人から誘導された「恋」はありなのか否か。そして前作から何かと愛され守られている印象を受ける佳奈さんも謎のままに思えたのは読みの足りなさか。余談、途中で、ある映画を観たこともあり、数日間、素数探しの呪いにかかったのは内緒。ガラス細工のように透明で繊細な一冊。2019/02/19
ケンケン
90
(561冊目)カバーデザイン・あらすじが気になり手に取ってみた、正解であった。 不思議な魅力を放っているSF短編の数々に、これはイイ作品に出会えたものだと。 SFが苦手な方にもお勧めしたい、恋愛模様の描き方に心惹かれるであろう。 ”ここは現実/仮想なのか?”揺れ動く心の機微を感じてみては、如何だろうか…2018/04/01
南雲吾朗
89
大好きな作家さんの待望の新作なので今回のレヴューは恐らく正当な評価ではないと思うが…とにかく本当にめちゃくちゃ面白い。有機素子コンピュータ上に仮想会話システムを構築し、それを取り巻く人たちのドラマ。専門ではないので想像することくらいしかできないが、有機素子だから人間に近い思考やファジーな演算が出来るのだろうか…。無機質のコンピューターの方が、人間より暖かい感じがした。 リペンジ・ポルノの完全消去。未必のマクベスでは、解決されなかったが、今回は「なるほど、見事!」と思わせるやり方で解決している。 2018/04/18