出版社内容情報
優しさと倫理が支配するユートピアで、3人の少女は死を選択した。13年後、死ねなかった少女トァンが、人類の最終局面で目撃したものとは? オールタイム・ベストSF第1位
内容説明
21世紀後半、“大災禍”と呼ばれる世界的な混乱を経て、人類は大規模な福祉厚生社会を築きあげていた。医療分子の発達で病気がほぼ放逐され、見せかけの優しさや倫理が横溢する“ユートピア”。そんな社会に倦んだ3人の少女は餓死することを選択した―それから13年。死ねなかった少女・霧慧トァンは、世界を襲う大混乱の陰に、ただひとり死んだはずの少女の影を見る―『虐殺器官』の著者が描く、ユートピアの臨界点。
著者等紹介
伊藤計劃[イトウケイカク]
1974年10月生まれ。武蔵野美術大学卒。2007年、『虐殺器官』で作家デビュー。「ベストSF2007」「ゼロ年代SFベスト」第1位に輝いた。2008年、オりジナル長篇第2作となる『ハーモニー』を刊行。第30回日本SF大賞のほか、「ベストSF2009」第1位、第40回星雲賞日本長編部門を受賞。2009年3月没。享年34。2011年、英訳版『ハーモニー』でフィリップ・K・ディック賞特別賞を受賞した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ハッシー
208
【ユートピアの限界】▶平和で優しさに満ち溢れた世界は理想郷ではなく、地獄だった。真綿で首を絞められるように「やさしさ」がじわじわと、空気や雰囲気を伝って意思を制限していく。全ての人々が幸せである世界では、わたしが「わたし」であることを許さない。▶膨大な知識量と理論に裏打ちされた世界観の構成がSFを現実の物語のように感じさせる。人間の「意思・意識」について根源的な問いかけを提起した作品。2017/04/24
おかむー
139
純粋な伊藤計劃オリジナル長編としては『虐殺器官』とこの『ハーモニー』だけなのだね。哲学的なところは同じだけど『虐殺機関』よりは読みやすかったかな。『よくできました』。医療が発達し、優しい倫理で人々が支えあう“しあわせなセカイ”、その世界の息苦しさを嫌悪する主人公・トァンの視点は意地悪くとらえれば実に中二病ではあるけれど、結末に至ればそれも納得。物語の最後に到達したのは“補完された世界”なのか“人類すべてが哲学的ゾンビになった世界”なのか。それはともかく巻末のインタビューと解説も理屈っぽくて難しい(笑)2016/04/28
藤月はな(灯れ松明の火)
139
最近、嫌だなと思ったのは「禁煙教室」のCMである。社会がじわじわと『幼女と煙草』のような「公共の幸福」のために「個人の意思による選択による幸福」を強烈にバッシングする世界になりつつあると感じるからだ。しかし、そんな世界に抵抗するのに個人の力は余りにも無力だ。だからこそ、折り合いをつけなければならない。しかし、折り合いをつけたとしても「個人の意思」があり続ければ、永遠に幸福になることはできない。あなたは、絶望を感じることができる「個人の意思」と永遠に幸福だと思う「公共の幸福」のどちらを選択しますか?2015/01/06
藤月はな(灯れ松明の火)
100
以前、父は晩酌の席で織田信長の言葉を引き、「今の長寿高齢社会は異常だ」と言っていた。以前はカロリーが低いマーガリンが持て囃されていたのに今ではマーガリンはアルツハイマー病を引き起こすかもしれないトランス脂肪酸を含むと発表された。価値は逆転しながらもじわじわと健康的で静かなヒステリーとも言える身体・精神共に健康志向になりつつある今だからこそ、この作品の空気は息苦しい。そしてPSYCHO-PASS2の鹿矛囲にも共通していた「人は自分の思い通りになる」と考える傲慢さを打ち砕いたのはトァンではなく、キアンだと思う2015/11/07
里愛乍
89
映画を観て再読。初読時から内容も構成も面白くて大好きでしたが、彼の記録や時評、関連小説を読んで、私にとって少し違う意味が加えられた。ああ、これは、この小説は、本は伊藤計劃氏そのものなんだ、と。彼の好きな映画や小説等で影響を受けてきたもの、体験してきたことや考えてきたこと、それらが全て詰まっている。私がここまで本書に惹かれるのはきっと、彼自身の言葉、意思的なものを感じずにはいられないから。彼は本当に言葉となり、物質化し、映像化し、物語となって、私も含めて今生きている人々の中で寄生しているのかもしれない。2015/11/23